Side朝陽

「そうですけど……」

俺が答えると、男性はゆったりとした上品な足取りでこちらに来た。
彼は、顔に入っている皺を考えれば、俺の親と近い年齢だろう。
ただ、姿勢は親よりずっと良い。
背中に、真っ直ぐな棒でも入っているのだろうか。
そんなことを考えている内に、あっという間に彼は俺の傍に来ていた。
胸元には金色に輝くネームバッジがあり、「支配人 山田」と書いてある。

「俺の名前、何故知っているんですか」
「私は山田と申します。このホテルの支配人をしております」
「あ、それはバッジを見ればわかりますけど……」

と言った後で、余計な事を言ったのでは、と思い口をつぐんだ。

「大変失礼いたしました。つい、いつもの癖で……」
「そ、そうですか……」

慣れない、丁寧すぎる対応をされて俺は戸惑った。
山田さんは感情が全く読めない、完璧な笑みで俺を見ている。

「海原様の事は、清様からお伺いしておりました」
「清……様……って……悠木先生の事ですか……?」
「左様でございます」

悠木先生を下の名前で、しかも様付けで呼ぶ。
山田さんと悠木先生は、果たしてどんな関係なのか。
とても気になった。
でも今はそんなことより……。

「俺、悠木先生に会いたいんですけど、会わせてくれませんか!?」

そう言うと、山田さんは綺麗に折り畳まれたメモを俺に渡す。

「これは……」
「清様からの伝言です。お受け取りください」

俺は奪い取るようにその紙を受け取り、開く。
そこはこう書かれていた。

<君の愛は、本物か?>

……どういう意味だ?
俺は山田さんにそう聞こうと思った時。

パシーン!という大きな、頬を叩いたとわかる音が響き、それから間も無く、子供の激しい鳴き声が聞こえた。


それは聞き馴染みのある声……。
葉だった。