Side実鳥

やはり、最初は驚かれた。
そりゃあそうだろう。
いきなり知らない人間に背後から話しかけられたら、誰だって驚く。
まして、一路朔夜のファンであれば尚更、属性的にそうなるだろう。

そう、私もこっち側の人間だ。
自信を持ってはっきり言える。

「一路朔夜見たって聞いたんだけど〜私も超ファンなんだよね!」

まずは、相手の懐に入り込む。
2人の持ち物を見ると、一路朔夜も出ているある乙女ゲームのファンだということがわかる。缶バッチやぬいぐるみバッチがちょこんと存在を主張していたから。

「私もさーそのゲーム好きで、一路朔夜のキャラ超推してるんだよね」

本当は別のキャラだけど、ここは相手を懐に入るため、ほんの少しだけ嘘を作る。
ゲーム全体を推しているので、半分は嘘ではないので、スラスラと出てくる。

ヲタという生き物は、推しを語り尽くせる相手には心を開きやすいものだ。
まずは初対面とはいえ、私が心を開く価値がある人間と思わせる。
それさえうまくいけば、あとはどうにでもなる。

「え、おばさんも好きなの〜」

おばさんは、余計だ。
まだ28歳だぞ。
子供がいるからっておばさんとは限らんぞ。
という、相手の語りたい欲を削ぐようなことを言ってはならない。
私は推しを目にした時のような満面の笑みで頷く。

「わかるわかる、一路朔夜が演じるからこその、あの甘いセリフ……ああ〜私も言われたい〜」
「やっばいよね、耳が孕む」

あー……私もそんな事言ってたなぁ……と懐かしみながら、彼女達の話に頷く。
ただ、このままだと聞きたい情報を聞けずゲームトークで終わりそうなので、改めて本題をここでぶち込む。

「でさー、一路朔夜って、ここにいたの?」
「あ、そうそう!」
「この子ったら、一路朔夜に話しかけられたって喜んじゃって」
「へえーそれっていつ?私も会えるかな?」
「ええと……1時間くらい前……だったかなぁ……」
「へえ……1時間前……」

意外と近い。
あとは場所が知りたい。
もう一押し。
「ロビーにいれば会えるかなぁ?」
私が聞くと
「どうかなぁ?私が会ったのはエレベーターホールだったけど、すごく急いでた」
「だって一路朔夜じゃん。忙しいに決まってるし」

なるほど。エレベーターホールに1時間前。
客室用とレストラン用は同じなので、宿泊をしているかどうかまでは、この情報までは掴めない。

何にしても、だ。
1時間前に、一路朔夜はいた。
それだけ分かっただけでも十分だ。
ありがとう。
そう言おうと思った時。

「あ、そう言えば」

と目撃した方がさらに口を開く。

「どうしたの?」

目撃してない方が聞くと

「私、一路朔夜にすごい早口で聞かれたことがあって」
「何それ!聞いてないよ!」
「だって、どう言っていいか分からなかったんだもん……。でも、今こういう言葉だったのかなぁ……って思いついて……」

「一路朔夜は……あなたに何を……聞いてきたの?」

私も聞いてみた。
すると、何でこれを聞いたんだろう……と前置きをした上で、彼女はこう言った。

「頭に包帯を巻いた女を見なかったか!」

と。