Side朝陽
間も無く目的地に着く。
そういうところで、渋滞にはまる。
もう、かれこれ30分以上、車が動かない。
後少しだというのに……。
「こらー、イライラしない」
俺の苛立ちの仕草をわかっている、有能な部下から容赦無く指摘が飛んでくる。
「すみません」
「もう……これからが大変だっていうのに、変なところで気持ち消費しないでよ」
そう。これからだ。
凪波を取り戻すために、まず一路と会わなくてはいけない。
その為には、慣れない土地で一路を探さなくてはいけない。
焦るな。
俺は自分の感情を深呼吸で抑える努力をする。
その間、まず数メートルほどだけ、車は進んだ。
すでに葉は、よだれを垂らして寝息を立てている。
疲れきっているのだろう、少し揺らしただけでは起きそうにない。
無理もない。
葉にとっては長時間の車の移動なんて初めてなのだから。
「もう……この時間に寝られると、夜寝かしつけるの大変なのよね……」
と藤岡がぶつぶつ言いながらスマホを操作している。
ぽんぽんと、葉のお腹を優しく撫でながら、もう片方の手でさっさっとフリック入力をしている。
それをバックミラーで見た俺は、藤岡の器用さに敬服した。
俺には、同時に複数のことを考えることはできない。
1つのことにしか注力できない。
もっと器用に立ち回ることができれば、何かが違ったのだろうか、と、こういうふとした時にできる空白の時間、考えてしまう……。
一路朔夜。
あいつは、顔も演技も歌も、バラエティで見せる人柄も完璧すぎる、と世の中では言われている。
……人柄は演技だったのかもしれないが。
あいつと比べて……俺はどうだ?
男として。
確かに今、りんご園の経営は順調だ。
今では名指しで取材の依頼も来る。
だけどそれは、俺の成果ではない。
決して。
「どうした、海原、顔怖いぞ」
「うるさい、何か情報見つかったのか」
「それがさ……ちょっと気になる情報があって……」
「え」
俺が振り向こうとすると
「あ、ほら前見て!車動いてる」
「あっ、やばっ」
俺は再びハンドルをしっかり握り、右足に集中する。
ノロノロと、ゆっくりではあるが先ほどよりは動き始めた。
「ねえ海原、今言った気になる情報についてだけどさ」
「……おう……」
「私今から読むから、耳だけ貸してくれない。目と足は運転集中で」
「………善処する」
もしここが高速道路だったら、そんな芸当は無理だった。
時速10キロのスピードを出しては止まる、の繰り返しの道路だからこそできる。
でも、この渋滞が結果的には良かったのかもしれない。
それ程、藤岡が語った内容は、俺達に衝撃を与えたからだ。
「今、ネットの掲示板を見てるんだけど、そこにこういうスレッドがあるの」
ネットの掲示板というのは、TwitterなどSNSが発達するずっと前に生まれた匿名投稿が可能な掲示板。
今でも利用しているユーザーは多く、クチコミを拾いにいくツールの1つとして藤岡は利用していると言っていた。
その掲示板には、俳優や歌手の熱愛情報についても多くの目撃情報が書かれることもあるらしい。
一度だけ覗いたことがあるが、自分には合わないと思い、さっと眺めただけでやめてしまった。
声優のトピックも、あるのだろうか。
そこに一路朔夜に関する情報がある、ということだろうか。
その予感は、どうやら合っていたらしい。
だけど、その内容は俺達の想像を遥かに上回るものだった。
それは……。
一路朔夜を誑かした悪女を成敗するスレッド
というタイトルから始まる、おぞましい計画。
間も無く目的地に着く。
そういうところで、渋滞にはまる。
もう、かれこれ30分以上、車が動かない。
後少しだというのに……。
「こらー、イライラしない」
俺の苛立ちの仕草をわかっている、有能な部下から容赦無く指摘が飛んでくる。
「すみません」
「もう……これからが大変だっていうのに、変なところで気持ち消費しないでよ」
そう。これからだ。
凪波を取り戻すために、まず一路と会わなくてはいけない。
その為には、慣れない土地で一路を探さなくてはいけない。
焦るな。
俺は自分の感情を深呼吸で抑える努力をする。
その間、まず数メートルほどだけ、車は進んだ。
すでに葉は、よだれを垂らして寝息を立てている。
疲れきっているのだろう、少し揺らしただけでは起きそうにない。
無理もない。
葉にとっては長時間の車の移動なんて初めてなのだから。
「もう……この時間に寝られると、夜寝かしつけるの大変なのよね……」
と藤岡がぶつぶつ言いながらスマホを操作している。
ぽんぽんと、葉のお腹を優しく撫でながら、もう片方の手でさっさっとフリック入力をしている。
それをバックミラーで見た俺は、藤岡の器用さに敬服した。
俺には、同時に複数のことを考えることはできない。
1つのことにしか注力できない。
もっと器用に立ち回ることができれば、何かが違ったのだろうか、と、こういうふとした時にできる空白の時間、考えてしまう……。
一路朔夜。
あいつは、顔も演技も歌も、バラエティで見せる人柄も完璧すぎる、と世の中では言われている。
……人柄は演技だったのかもしれないが。
あいつと比べて……俺はどうだ?
男として。
確かに今、りんご園の経営は順調だ。
今では名指しで取材の依頼も来る。
だけどそれは、俺の成果ではない。
決して。
「どうした、海原、顔怖いぞ」
「うるさい、何か情報見つかったのか」
「それがさ……ちょっと気になる情報があって……」
「え」
俺が振り向こうとすると
「あ、ほら前見て!車動いてる」
「あっ、やばっ」
俺は再びハンドルをしっかり握り、右足に集中する。
ノロノロと、ゆっくりではあるが先ほどよりは動き始めた。
「ねえ海原、今言った気になる情報についてだけどさ」
「……おう……」
「私今から読むから、耳だけ貸してくれない。目と足は運転集中で」
「………善処する」
もしここが高速道路だったら、そんな芸当は無理だった。
時速10キロのスピードを出しては止まる、の繰り返しの道路だからこそできる。
でも、この渋滞が結果的には良かったのかもしれない。
それ程、藤岡が語った内容は、俺達に衝撃を与えたからだ。
「今、ネットの掲示板を見てるんだけど、そこにこういうスレッドがあるの」
ネットの掲示板というのは、TwitterなどSNSが発達するずっと前に生まれた匿名投稿が可能な掲示板。
今でも利用しているユーザーは多く、クチコミを拾いにいくツールの1つとして藤岡は利用していると言っていた。
その掲示板には、俳優や歌手の熱愛情報についても多くの目撃情報が書かれることもあるらしい。
一度だけ覗いたことがあるが、自分には合わないと思い、さっと眺めただけでやめてしまった。
声優のトピックも、あるのだろうか。
そこに一路朔夜に関する情報がある、ということだろうか。
その予感は、どうやら合っていたらしい。
だけど、その内容は俺達の想像を遥かに上回るものだった。
それは……。
一路朔夜を誑かした悪女を成敗するスレッド
というタイトルから始まる、おぞましい計画。