Side朔夜

だから僕は、言った。
「経験した体験と感情は……役作りには使える」
と。
すると悠木が尋ねてきた。
「それはつまり、どういうことかね?」
と。
「つまり……?」
「経験した体験と感情とは?」
「……言葉のままだ」
「それでは、不完全だ」
「何だと……?」
「君は、経験した体験と感情は、どこにあると思う?」
「どこ……に?」
「そうだ」
「どこにと言われても……」
「君は、体験を再現しろと言われたら最初に何をするかね」
「え……」
「宝箱でも開けるのかね?地図でも作るのかね」
「そんなこと、するはずがないだろう」
「じゃあ、何をする……」

何を……だって?
体験を再現する時は、まず考え……。
あ……。

「そうだ。今君は、イメージをしている」

……図星だ。

「そして、そのイメージはどこで作られるか」

悠木は、自分の頭を指さしながら

「脳、そして記憶こそが、人を創る全ての原点」
「記憶……」

そう言うと、悠木が僕に近づき、耳元で囁く。

「君は何故、彼女にそこまで固執しているのかい?」
「……何を言って……」
「世界中で女性はたくさんいるのにもかかわらず、君は畑野凪波という存在にひどく固執しているように見えたよ」
「……何が言いたい……」

悠木は僕の頭を無理やり凪波を見えるようにわざと固定させる。

「さあ、彼女の前で考えたまえ」
「離せ……」
「何故、君は畑野凪波をそこまで求めるのか……狂った獣のように」