Side朔夜

「何をした」
もう、わかっている。
この男が、何かをしたのだ。
凪波に。

僕は……これまで殺意というものを感じたことはなかった。
諦めの気持ちが強かったから。
諦めることの方が楽だと、思うことばかりだったから。

でも凪波という存在が、僕の中に閉じ込められていた野生を目覚めさせる。
今、生まれて初めて「殺意」というものを身体中に感じる。

もし僕が今あのパイプを持っていたら、この男の頭目掛けて殴りつけていたかもしれなかった。

そんな僕の気持ちが、この男には分かったのだろうか。

「私を殺したいかい?」
「……っ!」
「残念だが、今君をすることは得策ではないよ、決して。何故なら……」

悠木は、自分の手でピストルの形を模す。
そしてこめかみに、手のピストルの先をあてる。
拳銃で自殺をする人のように。

「凪波さんをこの先、どんな形であれ生かすことができるのは……私だけだ。もしも君が私を殺すというのなら、その瞬間凪波さんの命は……ない」
「っ……!?」
「それでも、いいのかね?」
「良いわけないだろう!」

僕は握り拳を作り、窓に叩き込む。
窓がひび割れればいいと願った。
この音で、凪波が目覚めれば良いと、願った。

でもそれは、どちらも叶わないことはすぐ結果として現れる。
それを、この男は……。

「え……」

口元は笑っている。確かに。
だけど、目は違う。

胸が痛んでいる……。
苦しい。
助けて。

そう言いたげな目で僕を見ている。
その目は、一体何だ。
僕と悠木は、互いの目を監視する。
次、どうでてくるのかを、読み合う。

まるで、エチュードの授業。
想定外の相手の行動に対して自分がどう答えるのが正解なのかを、頭の中でジャッジし体を動かす。
あれの感覚に、よく似ている。

しばらくの静寂が続き、悠木の方からようやく次の言葉が出た。
でもそれは、ますます僕を混乱させる。




「君は……君という存在は、何で創られていると思う?」