Sisde朔夜

「……凪波と、どういう関係なんだ……?」

この、悠木という男は、僕と凪波しか知らないはずの約束を知っていた。
僕が話すはずはないのだから、彼に伝わるとしたら、凪波から話すしかない。

でも、凪波は……認めたくはないけれど……僕に関する記憶は消えていた。
だから、あの状態の凪波が僕のことを話すことも、想定はできないだろう。

「凪波さんと私は、患者と医師の関係……それ以上でも、それ以下でもない」
「それは知っている!でも、それ以外に何かあるだろう!」

そうでないと、説明がつかない。
凪波が、僕の記憶が確実にあったであろう時期に、この人に話していなければ。
凪波が他人に僕のことを話したかもしれないというのも、ショックではあるが。

「何か……ねぇ……」

明らかに考えてます……というわざとらしいポーズをとる。
それが、僕の気持ちを逆撫でする。

「それは……秘密を共有するような仲……ということ……かな」

その時、僕は一体どんな表情をしていたのか……。
僕をおちょくるような話し方をしていた悠木が、両手をあげて「冗談だ。そんな怖い顔をしないでくれ」と言った。
僕は、悠木が何かしないか……また、何を言うのか目を離さないようにように、瞬き1つすらしないように、彼を凝視する。空調がきいているのか、目が乾燥するのが早い。

「私と凪波さんは、何度も言うが患者と医師の関係だ」
「だからそれは」
「ただ」
「ただ……?」
「それは、彼女の記憶喪失後からではない」
「どういうことだ……」

くすり、と微笑しながら悠木は
「君も、薄々勘づいているようだが……確かに凪波さんと私は、彼女が君の記憶をちゃんと持っている時期……つまり彼女が東京にいる時から繋がっている」

やっぱり。
そうでないと、説明がつかない。
そこまでは、想定内だったが、悠木から出てきた次の言葉は、完全に想定外だった。

「そして、彼女の記憶から君を消したのは……私だ」