Side凪波

「俺は、お前がずっと好きだった……いや……今も好きだ」
ふと……聞こえる。
朝陽の声。
幼馴染の声。
まだ何も知らない頃の私を知っている人の声。

あの人の目に映る私は、18歳の私。
あの日、何としても還りたかった私。
でもそれは、所詮幻。

「一生お前を、俺に守らせてほしい」
ごめんなさい。
あなたの想いはもう、受け取ることができない。
受け取る資格がない。

だって、私は……。

「でも、やっぱり親友の私にくらいは言って欲しかったよ」
ふと……また聞こえる。
実鳥の声。
親友の声。
私に、生きる喜びも苦しみも気づかせてくれた人の声。

還りたいと思える自分を作ってくれた人。
でもそれは、同時に私の心に大きな沼も作り出す。
「BL同好会の繋がりは、あんたにとってそんなもんだったんかい?」
違う。
とても強かった。強すぎた。
まるで鋼鉄の鎖のように。
だから、無理矢理にでも切り離さないと、私は私を許すことができなかった。

いつか、あなたを傷つけることが怖かった。
私を恨むかもしれないあなたを見るのが、嫌だった。

だって、私は……。

ふと、顔をあげる。
最も私が心をむき出しにさせられた人。
眩しすぎるほどの光。
光の側にいればいるほど、闇は隠すのが難しい。
それを突きつけてくれた人。
でも……。
「…………さく……や……?」
私の人生の中で初めて、生身の人間を愛しいと思わせてくれた奇跡の人。
こんな私を信じてくれた人。
愛していると、強く言ってくれた人。

だから……。
「……お願い……私を………………」

これ以上、私を探さないでください。
これ以上、私を見つけないでください。

「ごめんなさい……」

私は、あなたに愛される資格なんてないのです。
私は、あなたが望んでいたものを、私の意思で殺したのですから。



「残念だ、凪波さん」
声が、聞こえる。
もう、この苦しみが終わりであると教えてくれる声。
今、1番聞きたかった声。

残念でもいい。
もう、おしまいにして。

「実験は、失敗だ」
約束のものは、すべてあなたにあげる。
そうすれば、真実は永遠に消えてくれるから。

もう、終わりにしましょう。
畑野凪波という人生を。
これ以上、私をこの世界に引き止めないで。

ねえ、朔夜さん。
私を、闇色の沼から見つけてくれてありがとう。
少しの間でも、光を見せてくれてありがとう。
幸せだった。
でも同時に不幸だった。

そんなことを考えていた私を、どうか見つけないで。
どうか、手放して。


それが、あなたのためでもあると、信じさせて。




ぷちん。


next memory...