Side凪波

「凪波、大丈夫?」
私を心配してくれる声。
ほんの少し、怯えている声。

私は、その声を聞くのが嬉しかった。
でも一方で、私は苦しがっている。
耳を塞ぎたがっている。

あなたは、私のことを何も知らないでしょう。
私の本当の姿を知らないでしょう。
だからこれ以上は、踏み込んでこないで。

そう叫ぶ、私がいる。

「あ……私……ここ……記憶……」

頭を掻きむしるほどに、次から次への脳の中に映像が浮かび上がる。

確かにあなたに抱かれている私。
あなたと笑い合っている私。
そうだ、私は、この人の隣にいたのだ。
私は、確かに幸せだと思っていたのだ。

でも……。
私はテレビであなたの声を聞きながら泣いていた。
私は、あなたが無邪気に語る成功の数々を聞きながら泣いていた。
あなたがいないところで。

あなたはきっと、そんな私の醜さに気づいていない。
気づかないで欲しいという気持ちと、どうして気づいてくれないの、という相反する気持ちがいつも私の中で戦っていた。

そしてあなたが私を愛している、と言ってくれるたびに。
優しく抱きしめてくれるたびに。

私は自分の醜さを呪っていた。
徹底的に。


だから……。
私は、自分に宿った命とそれに関わる、最も汚らわしい秘密を、消し去りたかったのだ。

そうか。
そうだったのか。

これが、罰の始まり。
私の弱さと汚さと、醜さへの。