Side 朝陽
そろそろ麻酔が切れる頃だ……と看護師が言った。
俺は、1つの決意を固めていた。

「おじさん、おばさん、話をしてもいいですか?」
この話をしながら凪波が目覚めるのを待ちたいと思った。

「もちろんいいわよ」
「なんだい?」

二人は、疲れた顔と声色をしている。

「凪波が目が覚めたら……どうしますか?」
二人は怪訝そうな顔で
「どうする、とは?」
「凪波を妊娠させた男、探しますか?」

一瞬の沈黙。そして

「……探してどうなるっていうの?」
おばさんが先に口を開く。
「………もし、その男が現れたら……凪波をその男に返しますか」
「返すわけないじゃない!」
おばさんが叫ぶ。
「きっと、その男のせいで、凪波がこんな……こんな……」

妊娠という言葉を無理に避けるかのように「こんな」を連発するおばさんを、おじさんが背中をさすって落ち着かせる。
ああ、やっぱりこの二人はいいな。
俺も、この二人のように凪波と……。


そう思った俺は意を決して
「お二人さえ良ければ……」

凪波と正式に結婚させてほしい。
俺に、その男から凪波を守らせてほしい。
そう言おうと思った、その時。







「ん……」
高く、小さなか細い声がする。
はっと全員がベッドを見る。
身じろぎをしながら、ゆっくり凪波が目を覚ましていく。


「凪波……!凪波聞こえる!お母さんよ!」
「父さんもいるぞ!」
「…………」

ぱっちりの目を開けた凪波は、ゆっくりと目線を俺たちの方に向ける。
俺はたまらなくなり、「凪波!」と叫んでベッドに覆い被さってしまった。

凪波の匂いが近い。
凪波の、ただ眠っている以外の吐息がする。
それだけでこんなに幸せ……

「あの……」

と、思ったのも束の間……


「すみません……初めまして……ですよね?」
と凪波が小さく、震えるように言ったのを聞いた瞬間、俺は目の前が真っ暗になった。