Side凪波

気がつけば、外に私はいた。
そこは、ファンタジー小説に出てきそうな庭だった。
月は、すでに出ていた。
水があまりにも綺麗だったから、月も水面に映り込んでいる。
私は、そこに足を入れたくなった。
ぐしゃぐしゃにかき回したくなった。

ぐちゃぐちゃと、かき混ざる音を聞いている内に、何かを考えることを
何も考えたくない。
考えなくても良いように、私は座り、水を蹴る遊びを始めた。

気持ちいい。
楽しい。
気持ちいい。
面白い。

単純なことだけを考えるのは、とても楽だ。
ずっと、このままなら良いのに。
でも……。
「あの……」

好きだと、思った声が耳に届いた。
一路さんが、いつの間にか、そこにいた。
私は自然と
「お帰りなさい」
と言っていた。
「何をしているの?」
と一路さんは聞いてくる。
どう、答えればいいのだろうか分からない。
言葉を交わすためにの葉を考えることが、うまくできない。

頭が痛い。
どんどん、痛くなってくる。
私は少しでも楽になりたくて、地面に背をつけた。

……無視をしたかと思われただろうか。
……嫌がられただろうか。
それならそれで良い。
そう思っていたら、一路さんは私の近くに来て、私と同じ行動をした。

分かっていたのかいないのか
「冷たい」
とつぶやく一路さんの行動がなんだかおかしくて、笑ってしまった。
一路さんも、笑っていた。

こんな時間を、知っている気がした。
でも、これ以上知ってはいけない気がした。


頭のどこかで警報がなる。
これ以上はダメだ。
そう、誰かが言った気がした。


ふと、空を見上げた。
月は憎いほど明るいのに、小さな星がほとんど霞んで見えなかった。

近くにまばゆい光を放つものがあれば、その周囲ではどんなに頑張って光っても目立たない。

それがとても残酷だ。
パチン。
パチン。
そんな、音が聞こえた。
声が聞こえた。

そうだ。私は……。
「見たかった……」
明るい月に負けない、星の光が見たかった。
闇に飲まれない星の光を信じたかった。


一路さん。
あなたは月の光。
太陽はあなたを光らせることを選んだ。
私は自力で光ることを信じて信じて、そして……。




あなたに潰された光。



そんなこと、思い出したくなかった。
思い出しては、いけなかったことを、思い出した。