Side凪波
白く、機械だらけの部屋に、私は寝かされていた。
この白さ、この部屋、窓からの景色は見覚えがある。
新しい記憶の始まりの場所。
しばらく入院をしていた、あの病院なのは間違いない。
……また、ここに戻された。
私は点滴の針を無理やり引っこ抜き、シーツが血に染まっていくのを呆然と見ていた。
血は、簡単に体から離れていける。
出て行った血は、決して私の体には還らない。あ
当たり前の事実なはずなのに、何故そんなことを気にしているのだろう。
どんどん、自分のことが分からなくなる。
私の中からぽっかり消えた、10年という月日。
一体、私は何をした?
鎖に繋がれた人生にサヨナラを告げたかったから、あの日駅に行ったはず。
それなのに、何故か今、より強大な強い鎖に縛り付けられている気がする。
お前は自由になれない。
そんな風に誰かが囁く声が頭の中でした。
くらり、と目眩がする。
その時、私の目にはがハンガーにかかっている自分の洋服らしきものと、バッグ、それに子供の頃に使っていたパスケースが目に入る。
パスケースの中には私が入れた覚えがない1万円が入っている。
さらにもう1枚、手紙が入っていた。
一路朔夜は間も無く東京に帰る。
君はどうする?
と。
それを見た瞬間、私は無意識に着替えをしていた。
あの人が知っているという、私を知りたい。
そうすれば、言葉で説明ができない不安から逃れられると、信じたかった。
誰がこの荷物を用意し、手紙を書いたのか、というところまでは考えが及ばないほどに、それを渇望した。
今はただ、重い体を引きずってでも、あの人に会わなくてはいけない、と。
扉をそっと開けると、誰も通らない。
今のうちだ、と、思った。
私はこっそりと病院を抜け出し、タクシーを使った。
「お姉ちゃん、体調悪いけど大丈夫かい?病院戻るかい?」
と運転手からは聞かれた気がしたが、気持ちはこの時はすでに、あの駅に飛んでいた。
でもふと、思ってしまった。
私は一路さんを求めていたのだろうか。
それとも、一路さんを通じて得られるであろう、自分の正体を求めていたのだろうか。
それからの記憶は、ほとんど無い。
無我夢中で走り、10年前の記憶を辿って東京への切符をどうにか買い、そして一路さんの姿を見つけた。
たったそれだけのことが、私の今にとってはとても重かった。
一路さんと電車の中で何かを話した気がするが、覚えていない。
覚えられなかった。
白く、機械だらけの部屋に、私は寝かされていた。
この白さ、この部屋、窓からの景色は見覚えがある。
新しい記憶の始まりの場所。
しばらく入院をしていた、あの病院なのは間違いない。
……また、ここに戻された。
私は点滴の針を無理やり引っこ抜き、シーツが血に染まっていくのを呆然と見ていた。
血は、簡単に体から離れていける。
出て行った血は、決して私の体には還らない。あ
当たり前の事実なはずなのに、何故そんなことを気にしているのだろう。
どんどん、自分のことが分からなくなる。
私の中からぽっかり消えた、10年という月日。
一体、私は何をした?
鎖に繋がれた人生にサヨナラを告げたかったから、あの日駅に行ったはず。
それなのに、何故か今、より強大な強い鎖に縛り付けられている気がする。
お前は自由になれない。
そんな風に誰かが囁く声が頭の中でした。
くらり、と目眩がする。
その時、私の目にはがハンガーにかかっている自分の洋服らしきものと、バッグ、それに子供の頃に使っていたパスケースが目に入る。
パスケースの中には私が入れた覚えがない1万円が入っている。
さらにもう1枚、手紙が入っていた。
一路朔夜は間も無く東京に帰る。
君はどうする?
と。
それを見た瞬間、私は無意識に着替えをしていた。
あの人が知っているという、私を知りたい。
そうすれば、言葉で説明ができない不安から逃れられると、信じたかった。
誰がこの荷物を用意し、手紙を書いたのか、というところまでは考えが及ばないほどに、それを渇望した。
今はただ、重い体を引きずってでも、あの人に会わなくてはいけない、と。
扉をそっと開けると、誰も通らない。
今のうちだ、と、思った。
私はこっそりと病院を抜け出し、タクシーを使った。
「お姉ちゃん、体調悪いけど大丈夫かい?病院戻るかい?」
と運転手からは聞かれた気がしたが、気持ちはこの時はすでに、あの駅に飛んでいた。
でもふと、思ってしまった。
私は一路さんを求めていたのだろうか。
それとも、一路さんを通じて得られるであろう、自分の正体を求めていたのだろうか。
それからの記憶は、ほとんど無い。
無我夢中で走り、10年前の記憶を辿って東京への切符をどうにか買い、そして一路さんの姿を見つけた。
たったそれだけのことが、私の今にとってはとても重かった。
一路さんと電車の中で何かを話した気がするが、覚えていない。
覚えられなかった。