Side凪波

2人が話をしているのは、少し前にできたという、プレハブのオフィス。
そこは、私がよくこの家に遊びに来ていた頃には、まだ影も形もなかった。

全体的には知っているはずの場所。
なのに、ここだけが新しい、私が知らない歴史がある。
それを、少しだけ寂しいと思う資格は、私には無い。

窓からは、2人が何かしらの話をしているのは見えた。
一体何を話しているんだろうか。
口元を動かしているのは、一路さんという人。
朝陽の顔は見えなかったが、一路さんは何かに耐えるような、苦しそうな表情をしていた。
それを見ている内に、今まで抱いたことのないような、胸が締め付けられる感覚が広がっていった。

声は、聞こえない。
口元の動きは私には読めない。
だから確信なんて全くない。
でも、そうであって欲しい、と思ってしまう。

彼は、私のことを話しているのだろうか……と。

私は入り口をノックをする。
あまり綺麗じゃないノック音だった。
朝陽が中に入れてくれた。

私はこの時、初めて知った。
一路さんの表情が、ここからは見えなくて、残念に思うような自分を。