Side朝陽

本当は、10年前になんで、俺に何も言わずにいなくなったのか、理由を聞きたかった。
本当は、お前なんかいなくたって俺は平気だったんだって、強がりたかった。
それが、お前に勝手に置いていかれた俺にできる、ちょっとした意地だと思っていた。

なんでだよ。
凪波。お前さあ、夢を追いかけるために行ったんじゃないのかよ。
幸せになるためにここを出たんじゃないのかよ。

なんでだよ。
なんでこんなに痩せてんだよ。
なんでこんなに苦しそうなんだよ。

……妊娠して……まして流産だと?
……ふざけるな。
誰だよ。凪波をそんな目に合わせたのは。


……万が一そいつが凪波のところに現れてみろ。
俺は、絶対そいつを許さない。
そいつに凪波を渡すくらいなら……



「おばさん、おじさん」
凪波はまだ眠っている。
もう3日は経っていた。

おばさんとおじさん、そして俺は1度それぞれの家に帰った。
おばさんはそのまま凪波が高校時代に着ていた着替えを複数持って、また病院に戻っていった。
おじさんと俺は、仕事が終わった後に顔を出し、ギリギリまで目覚めるのを待つ……そんなことを繰り返していた。

「朝陽くん……ここまで付き合わなくてもいいのよ?」
おばさんはそう言ってくれたが
「何言ってるんですか。こういう時は男手も必要ですから。任せてください」
と返した。

それは、単なる自分のエゴ。
ただ、目が覚めた凪波に少しでも早く会いたいと思ったから。


それほどまでに、まだ俺は凪波が好きだったのだと……
10年間で忘れていたふりをしていただけだったのだと……
思い知らされた。