Side凪波

実鳥とは、高校1年の頃からの付き合い。
仲良くなったきっかけは、本屋。

自分で本を買うということは無かったので、滅多に行くことはなかった。
その日通りがかったのは、本当に偶然。

ある本の表紙が、とても綺麗だと思ったので手に取ってみる。
男性2人が描かれていて、色使いも鮮やか。
でも心惹かれたのは、男性の表情。
自分が持たされている本では決して見ないような、色っぽさがあった。

見ているだけで、ドキドキする。
もっとも、透明な袋に包まれているせいで、中身の確認はできなかった。

どんな文章が書かれているのだろう。
知りたい。

だけどこの時、私はお小遣い制ではなかった。
たった500円の本ですら、自由に買うことができない。

諦めないといけない。
でも、気になる。

周囲を見渡してみる。
店員は、別の人のレジ対応に追われている。

私の中に、悪い考えがよぎる。
袋を少し破いて、中を覗いてみよう。
ほんの少しだけ、開けるだけ。
ちゃんと綺麗に開けば、閉じ直すことができる。

ほんの少しだけ……。
私は爪で袋を破こうとした。


「あー!!」
背後から、店中に通る大きな声が聞こえる。
私は驚いて、手から本を落としてしまう。

まずい。
私の今の行動、見られた?

恐る恐る振り返る。
そこにいたのは

「その本!いいよね!」

同じ制服を着ている女子。
すでに大量の本を本を抱えている女子。
この時は、1回か2回くらいしか会話をしたことがない女子。

まずい。
知ってる人だ。
私は急いで本を拾って、適当な場所に置いてその場を立ち去ろうとする。
でも……。

「え?」
その女子が、私の手首を強く掴む。
まずい。
私、チクられる?
言い訳が思いつかない。
頭が真っ白になる。
逃げなきゃ。
でも足が動かない。
どうしよう。
そう思っていると。

「ねえ」
女子が話しかけてきた。
「……あの……私……」
とりあえず、何か言わなきゃ……。
そう思って出た言葉が
「ひょ、表紙!」
声が裏返る。
「表紙!すごく綺麗で、見てて……」

苦しい言い訳だ。
あきらかに、表紙ではなく、袋の境目を見ていたのだから。
相手の反応が怖い。

でも女子は
「わ、か、る〜!」
と、私の手をがしっと握ってくる。
「え?」
「わかる!これ!超エモい!」
「え……も?」
「あなたもこっち側の人間なのねー!!」
「こ、こっち側?」

女子は興奮気味に私の手をぶんぶん振る。
目が異常に輝いているその女子こそ、私のこれからの人生を変える存在、実鳥だった。