Side凪波
「それにしても、やっぱり娘って良いわね」
「そうですか……?」
「そうよ〜。朝陽なんて、一度だって一緒に台所に立ってくれたことなんてなかったのよ」
そう言いながら、朝陽のお母さんは、クルクルと薄切りにしたりんごを丸めていく。
朝陽のお母さんの手の中で、それらがどんどん花開いていき、皿の上はいつしか綺麗な花畑になっていく。
その皿を見ながら、朝陽のお母さんの表情も、どんどん華やいでいく。
私は、その一連の流れに見惚れていた。
「これね、実鳥ちゃんに作り方を教えてもらったの」
「実鳥が?」
実鳥がここで働いている、ということは教えてもらった。
だけど。
「そうなの。今、インスタっていうやつ?おばさんよくわからないんだけど、そういうアプリっちゅうやつで、流行ってるから、うちでも作ってみるといいんじゃないかーって」
「そうなんですか……」
「おばさん、なかなかうまくできなかったんだけど、昨日と今日で、いーっぱい練習したんよ」
「そう……なんですか……」
「ほんと、実鳥ちゃんが来てくれてから、うちもだいぶ変わったんよ。昔はこんな風に、テレビとかに取り上げられるなんて、思いもせんかったしなぁ……。実鳥ちゃん様様よー」
私は、ただにこりと笑ってみせることしかできない。
朝陽のお母さんは、鼻歌を歌いながら、パイを焼く準備に取り掛かる。
一人で手際よく。
近くにいる私の手を、借りようとはしない。
昔、私はこの人が作る手作りお菓子が好きだった。
だから、この人の娘になりたいと、何度も願った。
この人の息子から結婚しようと言われた時、私は諦めたはずの希望が叶うかもしれない、と思った。
ここは、私のことを私として必要としてくれるかもしれない、と思った。
でもそれは、ドラマの終わりのように、あっという間に断ち切られた。
今この家には実鳥がいる。
実鳥の方が、この人には必要とされている。
結局私は、ここでも不安定な存在なのだ。
「それにしても、やっぱり娘って良いわね」
「そうですか……?」
「そうよ〜。朝陽なんて、一度だって一緒に台所に立ってくれたことなんてなかったのよ」
そう言いながら、朝陽のお母さんは、クルクルと薄切りにしたりんごを丸めていく。
朝陽のお母さんの手の中で、それらがどんどん花開いていき、皿の上はいつしか綺麗な花畑になっていく。
その皿を見ながら、朝陽のお母さんの表情も、どんどん華やいでいく。
私は、その一連の流れに見惚れていた。
「これね、実鳥ちゃんに作り方を教えてもらったの」
「実鳥が?」
実鳥がここで働いている、ということは教えてもらった。
だけど。
「そうなの。今、インスタっていうやつ?おばさんよくわからないんだけど、そういうアプリっちゅうやつで、流行ってるから、うちでも作ってみるといいんじゃないかーって」
「そうなんですか……」
「おばさん、なかなかうまくできなかったんだけど、昨日と今日で、いーっぱい練習したんよ」
「そう……なんですか……」
「ほんと、実鳥ちゃんが来てくれてから、うちもだいぶ変わったんよ。昔はこんな風に、テレビとかに取り上げられるなんて、思いもせんかったしなぁ……。実鳥ちゃん様様よー」
私は、ただにこりと笑ってみせることしかできない。
朝陽のお母さんは、鼻歌を歌いながら、パイを焼く準備に取り掛かる。
一人で手際よく。
近くにいる私の手を、借りようとはしない。
昔、私はこの人が作る手作りお菓子が好きだった。
だから、この人の娘になりたいと、何度も願った。
この人の息子から結婚しようと言われた時、私は諦めたはずの希望が叶うかもしれない、と思った。
ここは、私のことを私として必要としてくれるかもしれない、と思った。
でもそれは、ドラマの終わりのように、あっという間に断ち切られた。
今この家には実鳥がいる。
実鳥の方が、この人には必要とされている。
結局私は、ここでも不安定な存在なのだ。