Side朔夜

そのチャペルは、ホテルの庭に作られた森の中にあった。
最近作られたのだろう。
木とガラスでできていて、古ぼけたレンガ作りだった孤児院のチャペルとは全く違う印象があった。

きっと宣伝用に作られたのだろう。
今の若者にはとっつきやすいデザイン。
でも僕には、形だけを意識された客寄せパンダにようにも思えた。

かつての僕と、同じような。


扉を開けようと思ったが、鍵が掛かっている。
でも、ガラス越しに神の姿は見えた。

普段は信者でもないくせに、こう言う時にだけすがろうとする弱い人間達。それが僕たちだ。
そして神は、そんな僕達を見下ろしている。嘲笑うかのように。

いつの頃からか、そんな風に思うようになっていた。
でも今、僕は無意識に手を合わせていた。

その時。

「凪波……?」
チャペルの向こう側も、ガラス越しで見える作りになっている。
小さな池があり、そして……。

「凪波!」
頭に包帯を巻いている。
髪型も服装も、僕が今日ここに連れてきた凪波に間違いなかった。


「凪波!凪波!!」
僕は、最後の力を振り絞って、彼女の元へ駆け出した。