Side朔夜

客室のエリアは行ける範囲全て見た。
レストランエリアも、ショッピングエリアもロビーも……全部走って探した。
けれど、凪波は見つからない。

途中、誰かに話しかけられた時、要件をまともに聞かずに、相手も見ずに、
「頭に包帯を巻いた女を見なかったか!」
と逆に聞いてしまうこともあった。

それでも手がかり1つ見つからない。

汗がひかない。
これはただ体を動かした故の汗なのか、それともまた凪波を失うかもしれない恐怖故なのか……。

どちらもだ。


……どうしてだ。
どうして君は、僕から去ろうとする。
何度も、何度も何度も……。

疲れ切った体を、ロビーのソファに預けながら、天井を見上げて深呼吸をする。
考えるための酸素が足りない。
目を開けているのも辛いので、目を瞑り、大きく深呼吸を繰り返していると……。

「ねえねえ、あそこよかったよね」
「庭にあんな素敵なチャペルなんて……」
「将来あんなところで結婚式したいよねー」

……微かに聞こえてくる女性達の会話。
チャペル……教会か……。
孤児院時代が懐かしい……。

孤児院時代の時、シスターが教えてくれたことを、急に思い出した。
「祈りなさい。そうすることで、為すべきことが見えてくる、と」
かつては当たり前のように生活に取り入れていた祈り。
いつの間にか、自分の日常からそれを切り離していた。
何故なら、祈りはかつての自分の辛さも虚しさも取り払ってはくれなかったから。

でも今は……神にでも何にでも祈りたかった。