「突然お邪魔してすみません」

「いえ、わざわざありがとうございます」

週末、土曜日。
僕は「菅原」という表札のある家に来ていた。
県を跨いで、電車で二時間。確かにここから大学に通うのは大変そうだと思う。
菅原隆史が僕の通っている大学の生徒だったのではないかという想像から、彼の名前をネットで検索してみた。運の良いことに、実名登録のSNSで彼の名前と、大学名が記載されていた。

やはり、菅原隆史は僕と同じ大学に通っていた。

さらに彼がオーケストラ部に所属していたことが分かり、オケ部の連中と連絡をとった。事情を話すとすぐに受け入れてくれて、菅原隆史のご両親につないでくれたのだ。
そこから先は簡単だった。
菅原家にお邪魔して、彼のことを聞く。
勇気がいることではあったが、瀬戸さんの寂しそうな表情を思い出し、なんとか実行に移せた。

「こんなふうに訪ねてくれる友達がいて、隆史も喜ぶと思います」

隆史くんのお母さんは、息子さんの死を悼んでか、窶れて見えた。瀬戸さんの口ぶりからするともっとヒステリックな人なのかと想像していたが、この一件で変わってしまったのかもしれない。
僕は、本当は菅原隆史の友達ではないので申し訳ないと思いつつも、彼の遺影が飾ってある仏壇の前に座りお線香をあげた。
菅原隆史は、やはり亡くなっていた。
3ヶ月前のことだそうだ。
それよりもずっと前に、一人暮らしをしていた部屋は解約していたのだろう。瀬戸さんには知らせられなかったため、彼女はついこの間まで、もしかしたらまだ菅原さんが僕の住んでいる家にいるかもししれないという可能性に賭けたのだ。
お線香をあげたあと、お母さんがお茶とお菓子を出してくれた。
ずけずけお邪魔したのに申し訳ないとおもいつつ、お言葉に甘えてお茶をいただく。

「隆史さんは、どんな方だったんですか。もし差し支えなければ、教えていただきたくて」

どうしても、彼のことを聞きたかった。
瀬戸さんに、彼のことが少しでも伝わってほしくて。
もしかしたら気分を害すかもしれないと思ったけれど、正直に聞いた。
お母さんは僕の質問に一瞬目を伏せたけど、「そうね」と切り出した。