当たり前だけど翌日以降、瀬戸さんは手紙を投函しに来なくなった。
行き場をなくした手紙は、今もなお僕の部屋の本棚に置いてある。もう二度と増えることのない手紙だ。
「ねえ、菅原さんって、結局どうなったんだろうね」
一週間後のバイトの時間、不意に真理亜がそう言った。彼女とはあれから菅原隆史のことも手紙のことも話していなかったので、ちょっと驚く。
「さあ。でも、瀬戸さんの言う通り、まだ別の病院で入院してるのかもしれないし、もしかしたらもう……」
「そうね……」
もう、この世にはいないのかもしれない。
という言葉は、言わなくても真理亜にも分かっていたようで、僕たちの間に気まずい沈黙が流れた。その沈黙を破るかのように、彼女が「あのさ」と再び口を開く。クローズ時間も近づいてきて、お客さんはほとんどいない。
「瀬戸さんは、菅原さんのこと、好きだったのかな」
僕も、彼女と同じことを聞こうとした。瀬戸さんの憂いのある表情が忘れられない。単に看護婦として、菅原さんを他の病院へやってしまったことが、悔やまれるだけなのかもしれないし、それ以上の感情があったのかもしれない。
「分からない。そうだとしても、僕は瀬戸さんを応援したいよ」
「そうだね。私も、もし瀬戸さんの立場だったら、同じことしてたかも」
真理亜は、僕の方をじっと見たり目を逸らしたり、何か言いたげな表情をしていたが、結局口をつぐんでしまった。
なんとなく恥ずかしくなって、僕も顔を逸らした。
気付いたら最後に残っていたお客さんも、いなくなっていた。
その夜、僕はなかなか眠りにつけなかった。
9月に入り、明らかに8月よりも涼しくなって、寝つきやすいはずなのに。
ただ、原因は分かっていた。
今日、真理亜と例の手紙の話をしたこと。
それに、真理亜が僕に何か言いたそうにしていたこと。
手紙の一件は、僕も真理亜も瀬戸さんも、もう忘れる。
三人の間にそんな暗黙の了解があったが、自分にも何かできないのかとひたすら考えていた。これを解決しなければ、真理亜とも向き合えない気がしたからだ。
「よし」
ベッドから起き上がって、机に向かう。
何をするわけでもないけれど、自分に何かできないか考えたかった。
自分にできること。
一つだけ、あるのかもしれない。
行き場をなくした手紙は、今もなお僕の部屋の本棚に置いてある。もう二度と増えることのない手紙だ。
「ねえ、菅原さんって、結局どうなったんだろうね」
一週間後のバイトの時間、不意に真理亜がそう言った。彼女とはあれから菅原隆史のことも手紙のことも話していなかったので、ちょっと驚く。
「さあ。でも、瀬戸さんの言う通り、まだ別の病院で入院してるのかもしれないし、もしかしたらもう……」
「そうね……」
もう、この世にはいないのかもしれない。
という言葉は、言わなくても真理亜にも分かっていたようで、僕たちの間に気まずい沈黙が流れた。その沈黙を破るかのように、彼女が「あのさ」と再び口を開く。クローズ時間も近づいてきて、お客さんはほとんどいない。
「瀬戸さんは、菅原さんのこと、好きだったのかな」
僕も、彼女と同じことを聞こうとした。瀬戸さんの憂いのある表情が忘れられない。単に看護婦として、菅原さんを他の病院へやってしまったことが、悔やまれるだけなのかもしれないし、それ以上の感情があったのかもしれない。
「分からない。そうだとしても、僕は瀬戸さんを応援したいよ」
「そうだね。私も、もし瀬戸さんの立場だったら、同じことしてたかも」
真理亜は、僕の方をじっと見たり目を逸らしたり、何か言いたげな表情をしていたが、結局口をつぐんでしまった。
なんとなく恥ずかしくなって、僕も顔を逸らした。
気付いたら最後に残っていたお客さんも、いなくなっていた。
その夜、僕はなかなか眠りにつけなかった。
9月に入り、明らかに8月よりも涼しくなって、寝つきやすいはずなのに。
ただ、原因は分かっていた。
今日、真理亜と例の手紙の話をしたこと。
それに、真理亜が僕に何か言いたそうにしていたこと。
手紙の一件は、僕も真理亜も瀬戸さんも、もう忘れる。
三人の間にそんな暗黙の了解があったが、自分にも何かできないのかとひたすら考えていた。これを解決しなければ、真理亜とも向き合えない気がしたからだ。
「よし」
ベッドから起き上がって、机に向かう。
何をするわけでもないけれど、自分に何かできないか考えたかった。
自分にできること。
一つだけ、あるのかもしれない。