くたくたになった状態でアルバイトを終え、家に帰り着く。
「あれ」
今日もポストを開けると、手紙が入っている。
昨日と同じ、クリーム色の封筒に、「菅原隆史様」と宛名だけが書かれた手紙。
なんだこれ、本格的にストーカーじゃないのか。
僕は、不意に左右を見て人がいないことを確認した。悪いことをしているわけでもないのに、他人宛の手紙を持っているというだけでなんだか後ろめたい。
他のチラシ類は何も入っていなかったので、とりあえず手紙を持って部屋に上がった。
昨日の手紙と同じように、本棚の上に置いておく。
頭から、手紙のことが離れない。
もしかするとこの手紙は、一方的に男に振られて女が、男のことを忘れられずに贈った手紙かもしれなかった。
そう考えると、今日真理亜が言っていたこともあながち間違いじゃないのかもしれない。


手紙は、その後もコンスタントに届き続けた。
二日おき、三日おき、一週間おき、と頻度はばらばらだったが、手紙の主は全然飽き足りないらしい。返事なんか来ていないだろうに、よくここまで根気強く続けられるな。
僕の家の本棚の上には、行き場のない手紙がどんどん積まれていって、全部で10通は溜まっていた。

「いい加減にしてくれないかなあ」

手紙がくるからといって、めちゃくちゃ困っているわけではない。迷惑といえば迷惑だが、嫌ならとっとと捨ててしまえばいいものだ。
それを溜めてしまう自分が悪いと言えばそうだ。
しかし、一度手紙を保管しようと思い立ってしまったいま、この手紙の謎を解かないと、気になって仕方がなくなって。
「菅原隆史」に未練たらたらの元恋人ストーカーが、ちょっと不便に思えるくらいになってしまった。
気付いたらもう8月も下旬になり、夏休みも残り1ヶ月。
始まる前は長いと思っていた休みが、手紙の謎に振り回されて過ぎてゆく。
なんという、大学最初の夏休みだ。