翌日は朝10時から夕方5時までアルバイト。
チェーン店のカフェで、自分ともう一人、緒方真理亜(おがたまりあ)という女の子が同じ時間帯にシフトに入っていた。彼女は二年生だから、一年先輩。先輩だけど、バイトを始めたのは僕の方が先だから、お互いタメ口で話している。短髪で接しやすい雰囲気の子なので、口下手な僕にとってはありがたかった。お互い口下手だと、間がもたない。

「昨日、おかしなことがあったんだよね」

午前中、比較的お客さんが少なく、バイト同士で話しながら、備品を整備したり料理の仕込みをしたりしていた。

「おかしなことって? なになに、幽霊でも出たの?」

何にでも興味を持ってくれる彼女は、身体ごと僕の方に向けて続きをせがんだ。

「残念だけど、幽霊じゃない」

「え〜じゃあ、泥棒にでも遭遇した?」

いや、なんでそんな物騒なことしか思いつかないんだ、と突っ込みたくなったが話が進まないのでやめておいた。

「手紙が来たんだ。知らない人宛ての。たぶん、前の住人だけどね」

「へえ、手紙ねえ」

彼女は意味深に深く頷いて見せた。なんだ、僕が嘘をついているとでも思ったのか。

「言っとくけど本当だよ」

「嘘だなんて思ってないよ。第一、嘘にしてはつまらなすぎる」

「まあ、そうだけど」

認められたのか認められていないのか分からない彼女の言葉に僕はこの先どうしようかと思案した。

「で、何がおかしいの?」

「手紙の差出人名がなかった。だから、どんな人が前の住人に宛てて書いたのか
分からないんだ」

「ふーん」

包丁できゅうりを薄切りする手を止め、何か考えている様子の彼女。
「あ」と、突然答えを思いついたらしく、僕の目を見て言った。

「それ、恋人じゃない?」

「は?」

「だから、前の住人の恋人」

「ああ、なるほど」

なんだかすごく普通の答えじゃないか。
恋人か。
女の子が男に手紙を書くというなら確かに自然で、恋人ならなおさら……と納得しかけた。
が、ちょっと待て。
恋人がわざわざ手紙を書くって、時代錯誤すぎないか?
しかも、手紙には宛名だけで、住所は一切書かれていなかった。
ということは、差出人は、わざわざ自分で手紙をポストに来ているということじゃないか。
遠距離恋愛なら手紙を出すのもわかるが、それだと切手が貼られていない理由が分からない。
真理亜に話すと、「まあ、それならストーカーかな」と軽くあしらわれた。