「嘘や!」

 地回りとの抗争後、気を失っていた十三歳の圭は、翌日蒼太の命令どおり病院へいき、怪我の治療を受けた。
 顔にも身体にも傷なんか残すなと言った蒼太の言葉を守り黙って治療を受けた。そしてその数日後、蒼太がその時の抗争相手である地元の暴力団へ最下層構成員として下ったことを知ったのだ。

 蒼太がなぜそんなことを承知したのか、本当の理由はわからなかったが、回りの連中はみな蒼太のことを大人に命乞いをした臆病者だと騒ぎ立てた。その場で嬲り殺されるか、それとも下っ端の最下級構成員となり、いままでかけた迷惑を償うか、そう迫られて殺されるよりも生き残る道を選んだのだと。土壇場で命を惜しんだ腰抜けだと批判した。
 だが圭にはどうしてもそうだとは思えなかった。蒼太はそんな小さな男じゃない、ほかにもっとなにかわけがあったに決まっている。そう信じていた。
 もし仮に噂どおりの条件が出されたにせよ、蒼太が奴らに従ったのは、自分可愛さのためじゃない、自分が意地を通すことで、壬晒組の仲間達に危害が加えられることを恐れたのだ。蒼太は青春時代を一緒に走ってきた壬晒組と、その仲間達を護るために自らを生贄に捧げたのだ。
 そう固く信じていた。

「蒼太先輩はそないコマイ男やない! お前等、散々先輩に世話になっとってなんでそれがわかへんのや!」
 そう叫んで壬晒組の仲間達を殴った。
 忽ち乱闘になる。
 見かけはただの小さく可愛い中坊にしか見えなかった圭を、みんな本気でかかれば叩き伏せられると思ったのだろう。だがそれは大きな誤りだ。圭は十三歳で壬晒組の副長を務め、抗争では先陣であり、むしろ実力はその地区一だったかもしれない。
 蒼太のいなくなった、こんな情けない奴等しかおらん組にはもうなんの未練もない。
 圭は壬晒組を抜けることを宣言し、当然受けなければならないはずの制裁も実力で来いや、と乱闘の場に変えた。そしてボロボロになりながらも、その場にいた壬晒組の構成員二十七名を全て叩き伏せていた。
 最後の一人を叩き伏せ、立っているのもやっとだった圭はそれでも熱く燃える瞳を輝かせ、大声で叫んだ。

「俺は壬晒組総長、風祭蒼太の右腕、壬晒組副長、尾崎圭やぞ! 舐めんな!」

 その日限りで壬晒組は解散とさせた。
 壬晒組は風祭蒼太のモノだ、蒼太と圭の夢だ、その二人が抜ける今、その存在には意味がない。
 残った者がまた新たに別の組を作ることは止めない。だが、「壬晒組」を名乗ることは許さない。
 そう宣言し立ち去った。


――────圭、俺はお前のその顔も気に入っとるんやで。
――──傷なんぞ残すンやない、ちゃんと病院行きや? 

 はい、はい先輩、わかっとります、ちゃんと行きます。