行ってしまう。
 自分をおいて逝ってしまう。

 思わず伸ばしかけた手が地面に落ちる。圭の耳には蒼太の良く通る潔い声が聞こえていた。

「お前の顔は気に入っとるんやで、傷なんぞ残すんやないぞ、明日ちゃんと病院行け、ええな?」
「……」

 はい。
 はい、わかりました、そうします。




――────パァン!

 突然響いた乾いた音に、八年後の、二十一歳の圭は驚いて顔を上げた。
 液晶画面の中のボロアパートは警官が取り囲み、騒然としている。中継現場のレポーターが、どうやら発砲があったもようですとヒステリックに叫んでいた。

 発砲……?
 誰が?
 誰に?
 蒼太先輩?

 思わず見入った画面からは何がどうなったのかわからなかった。現場は騒然としていていっこうに詳しい情報が伝わってこない。ただ発砲があったことだけを繰り返すレポーターの声に、圭は思わず握りしめていたリモコンに気付き、チャンネルを変えた。他のチャンネルでもっと詳しい情報が流れていないか探す。
 蒼太は暴力団関係者三名に発砲、内二名重症、その後駆けつけた警官を振り払い逃亡後、警官と一般市民に向けて数発乱射。警官一名が撃たれて重傷を負った。その後、たまたまそのアパート前を通りかかった十三歳の少年を人質に、懐かしのアパートに立てこもったらしい。
 白昼の大事件とあって、各マスコミはこぞって中継車をだし、ほぼ全てのチャンネルで特番体制になっていた。事件のきっかけになった最初の発砲に及んだ理由は暴力団関係者同士の権力争いか、小競り合い程度のモノだったのではないかとの憶測だ。

「蒼太先輩……」
 思わず知らずに口をついて出る名に胸が熱くなる。

 行かんでください。
 逝かんでください。
 俺をおいて、逝かんでください。