そのとき圭はようやく気がついた。
 自分から外へ働きかけることを苦手としている旭が、自分を心配し、わざわざ仕事の合間を縫って電話してくれたことの重大さを。

 この人を好きになってよかった。
 心からそう思い、今度は旭を思い泣いた。

 しかし、散々泣きはらした後、圭は突然ある事実にアッと気付き、おそるおそる訊ねる。

「と、ところで旭くん、さっき蒼太先輩のこと、俺の好きやった人やって言いました?」
『うん、だって、そうでしょ?』
「なんで? なんでですか、俺、そんなん言うたことないですよね?」
『うん、でもわかるよ……だって蒼太さんの話してるときの圭くんって、凄く熱い目してるもん』
「そ、そやったですか……?」
『そうだよ、俺、圭くんにそんなに思ってもらえる蒼太さんって凄いなって思ってたし』
「そ、そんな……」
『でも圭くん少しは元気でてきたみたいだね?』 
「や、え、あ、はい」
『よかった、じゃ、もう休憩終わるみたいだから、ごめんね』
「え? 旭くん? ちょっと、旭くん!」

 プツンと切れた携帯を握りしめ、圭は唖然としていた。耳の奥にはまだ風に軋むトタン屋根の音が聞こえている。

 凍えた身体を温めあった優しい温もりを思い出し、風の音に懐かしく聞きいった。
 そして、切なさと哀しみの中、小さく呟く。

「蒼太先輩……」

 信じとってもええですか?
 先輩も喜んでくれる、そう思うてええですか?
 俺は今幸せですよ、本当に生きてて良かったと思うとります。


 ありがとうございます。




 ― End. ―