その夜、玉環は胸を弾ませて碧楼宮の門をくぐった。初夜以上に着飾った煌びやかな装いは、月光を受けて輝いている。周囲を皇帝から寄越された迎えの兵に囲まれ、しずしずと歩いた。
 ──皇后にふさわしいのはこの私よ。
 御通りが絶えてからこっち、ずっと抱えていた不安が霧散して、玉環は微笑みを浮かべた。やはり天は玉環を愛している。御通りが絶えたのは何かの間違いだったのだろう。
 そもそも、生まれたときからそうだった。玖蓮国でも屈指の名家である瓏家に次女として生を受けたが、姉が愚鈍だったおかげでほとんど長姫と同じ扱いを受けた。そのまま淑妃として後宮入りし、皇帝の閨に呼ばれた。まだ懐妊してはいないが、それも時間の問題だろう。きっと東宮を産んで皇后になれる。玉環は信じて疑っていなかった。
 だから、それを見たときは我が目を疑った。
 連れられて来たのは閨ではなく、皇帝の執務室。目の前には玉座に座す皇帝。その右には大きな腹を撫でる貴妃が寄り添い、左には如閑。そして如閑の隣には。

「お姉様──」

 神妙な顔で床几に腰掛ける、芙蓉がいた。黒色の襦裙を着て、艶やかな髪を瑠璃のあしらわれた簪で結いあげている。髪を上げているとその顔立ちが美しいことがよく分かった。黒の襦裙は、肌が雪のように白いことを目立たせた。
 玉環の背後で扉が閉まる。皇帝が口を開いた。

「──それでは、劉貴妃を呪った下手人の詮議を始める」

 その厳しい眼差しは、玉環に向けられていた。