いつの間にか、私は友達と服を着替えて、
体育館の壁際に座っている。
最近の私はこんな調子で、知らない間に流されている間に、次の授業になっていることが増えている。

今日の授業はハンドボール。
体育委員の子がコーンやゴールの準備をしていて、その様子をこうして見ていた。
冬に半袖半ズボンの体操服しか許されないうえに、体育館の横の扉も換気(かんき)のため全開。
同性で固まって(だん)を取るしか、寒さをしのぐ方法はない。


それでも、ボールを取り出してバレーボールごっこをしてふざけている男子はいた。年中半袖のTシャツを着ている人もいるくらいだから平気な人は平気なのかもしれない。
内浜(うちはま)の姿はそこにはなかった。向こうの(すみ)で他の男子と楽しそうに喋っている。



チームごとに軽くパス練習をした後、担任の先生のホイッスルでよそのチームの試合が始まった。体育館にコートは二つしかないので、余るチームはコートの外でその様子を見学しつつ、スコアボードを更新する役目を(にな)う。
私は同じチームの女子と一緒にスコアボードを挟んで立っていた。するとその子はそっと耳打ちをしてくれた。
「あの子達、明らか手抜いてて、ヤな感じだね。」



男女混合で進行する体育は、小学校高学年になると体力差で男子がちょっと優勢になる。すると体育の授業に対する姿勢が女子は変わってくる。男子に食らいついていく女子、わざと手を抜いて男子に任せる女子、色々いる。
同じチームの彼女が教えてくれた、たった今試合に出ている" ヤな感じの子 "は後者だ。先生が即席で決めたチームが偶然仲良しで固まった彼女達は服もおしゃれで、わざと手を抜いて男子に可愛く見せる方法も上手い。
私は、そのどちらにも属さない、その辺ノータッチの女子だけど。


ただその中には、今年のクラス合唱の伴奏をする子もいた。もちろん町内ピアノコンクールに何度も出場している子だ。その子に関しては、手を抜いているというよりは(かば)っているように見えた。だって怪我をして絆創膏(ばんそうこう)をしていたらオクターブが弾きにくい。
私はピアノを辞めるタイムリミットが来てしまった。もちろん分かってはいたけど、今年も伴奏には選ばれなかった。そういえば、手の怪我を心配する必要ももうなくなるんだよなぁ。





そしてゲームセットになり、チームは交替。
今度は私達のチームと、
───内浜(うちはま)のチームが対戦になった。


それぞれのメンバーが中央のラインに整列する。
ふらっと、あまりにも自然に、彼が目の前に並んだので動揺した。
「よろしくお願いします。」
頭を下げるタイミングが遅れた。