いよいよ本格的に死を覚悟した、その刹那。
ぼしゃん!と、水面が激しく波打った。
おびただしい量の水泡が浮き上がる中、儚い神秘の光を纏いながら、まるで泳ぐように月の光のような白銀が舞う。
(……うそ)
その瞳と目が合った瞬間、強く腰を引かれた真宵は一息に口を塞がれていた。
口付けされたのだと理解する間もなく、大量の空気と共に溢れんばかりの神力が流れ込んでくる。
意識が縁取られるように戻るのを感じながら、真宵は目を見開いた。
(冴霧、様……?)
その時、ふたたび凛とした声が響く。
『俺の花嫁に手を出すとは……──よほど殺されたいらしいな』
夢の声ではない。
正真正銘、冴霧の声だ。
真宵を腕の中に抱き込みながら、冴霧は泉の底に向かって静かに手を伸ばした。その瞳に光はない。
そこにあるのは、ただただ猛烈な怒りだった。
『ならば、お望み通りにしてやろう』
触れただけで全てを凍りつかせてしまうような声に反応するように、バチンッと音を立てて真宵の腕についていたブレスレットが弾け飛んだ。
同時に真宵は、体から何かぬめついたものが抜け出たような感覚を覚える。
『ぐぁぁぁぁああぁぁぁあ!』
頭の中に獰猛な唸り声が響き、思わずぎゅっと冴霧に抱きついた。
それをしっかりと片腕で抱き返しながら、冴霧は何も見えない水底に向かって言い放つ。
『──……罪を背負いし愚かなモノよ。無に還れ』
その瞬間、水中にさまよっていた鉱麗珠が全て砂のように崩れ落ちた。
それを見届けることなく冴霧と真宵は勢いよく浮上し、ザバリと音を立てて泉から飛び出す。