「そういうとこ?」
「俺がどんなに鬱屈して心を殺していても、真宵と話してると自然と『俺』が戻ってくるんだよ。それがどんだけ俺を救ってくれていたか、おまえは知らねえだろうけどな。そういうとこが真宵のずるいところだ」
なんだ仕返しか、と真宵は唇を引き結ぶ。
「いつもいつも俺の予想の斜め上をいく。ったく、困った嫁さんだよ」
「む……それを言うなら冴霧様の方が困った神様ですよ。私、あなたが自ら消えようとしてるって気づいた時、本気で嫌いそうになりましたからね」
「おまえだって自分を犠牲にして俺を救おうとしただろ。お互い様だ」
むに、と頬をつままれる。
確かにそうだ。
真宵は自分の命があやうくなるとわかった上で儀式を行った。
それで冴霧を救えるのなら本望だとすら思って。
死を、覚悟した上で。
「……私たちって、やっぱり似た者同士なのかもしれませんね」
「だとしても、もう二度とあんなことはしねえし、させねえよ」
肘を下ろして横になると、冴霧は真宵の髪に顔を埋めるように抱き寄せてくる。
「おまえだけは失いたくねえ。あんな肝が冷える思いはもうこりごりだ」
「冴霧様……」
「だからこれからも俺に守られろ。どんなに傷ついても逃がしてやらねえからな」
なんともくすぐったくて、ふふ、と真宵ははにかむ。
「それは私の台詞です。どんなに傷ついたって離れてなんかやりませんから」
冴霧の仕事を否定する気はない。
神様はよく『人の子は』とか『人の子のくせに』とか妙に達観したことを言うけれど、真宵は神様の方がよっぽど人くさいと思っていた。
元は人の願いから生まれたものだからか、神様の世界の文化の影響かはわからないけれど、彼はひどく利己的だ。
それでいて喜怒哀楽の感情の使い分けがハッキリしていて、人のように曖昧ではない。
だからこそ必要以上の泥臭いことも平気でする。