冴霧の背中をバンバン叩きながら猛抗議するが、まったく聞く耳を持ってくれない。

 しかもこの状況でいったいなにを察したのか、やたらと満足そうな笑みを浮かべた鬼ふたりが無情にもひらひらと手を振ってきた。

「ほんなら、主はん。オレらはコンちゃん連れて、ちょっくら天照御殿まで行ってくるからな。戻るのは明日になるで」

「えっ、え、天照御殿? 待って、それなら私も」

「いえいえ。主もお嬢も満身創痍なんですから、しっかり休んで頂かないと。お嬢の荷物はコン太くんにまとめてもらいますし、なにも心配ありませんよ」

 実はこれから当分の間、真宵は冴霧邸で暮らすことになっていた。

 結婚したからというよりは、翡翠の助言である。元より縁を持たない真宵。

 契り自体は成功したものの、繋がりは脆いため、より縁を強固にする必要があるらしい。

 そのためには、共にいる時間を増やして縁を重ねていく工程が必要不可欠で、結果的に同居……いや、同棲生活を続けることになったわけなのだけど。

「や、やっぱり私、家に帰ります! 嫌な予感しかしない! 帰らせて!」

「は、誰が逃がすかよ。大人しくしねぇと落っことすぞ」

「もう落っことしても良いから離して下さいぃぃい!」

 いっそ泣きそうになりながら暴れるけれど、言葉に反して冴霧の腕はびくともしない。

 がっしりと真宵の腰をホールドしたまま、のらりくらりと歩き出す。

「は、白火! 助けて!」

 今こそ神使の出番だと声を張り上げるけれど、白火は蒼爾にがっしりと抱きかかえられたまま戸惑ったように視線を彷徨わせるばかり。

 迷う幼子へ追い打ちをかけるように、鬼たちが白火の耳元で意味深に囁いた。

「ここは空気を読むところですよ、コン太くん」

「せやで。新婚の邪魔したらあかん」

「で、ですよね。ぼくがいたら……その、だめですよね」