隅々まで洗練された日本庭園を囲んで連なるのは、広々とした和室や茶の間。

 下働きの者がいないという屋敷内はひどく清閑だ。

 それこそ全く使用していない部屋も多く見られるが、清潔感は保たれているし、かといって退廃的でもなかった。

 内縁を足早に歩く冴霧に掴まりながら、真宵はそろそろと屋敷の様子を観察する。

(うーん。昔と変わってない、ような。変わってる、ような……)

 冴霧邸には幼い頃にも幾度か遊びに来たことがあるけれど、あの頃とは事情が異なる。経緯も経緯だけに、さしもの真宵も戸惑いと困惑を隠せずにいた。

 しかもあれよあれよと連れていかれた先は、美しい庭園の風景がもっとも映えて見える一室だった。

 広さは十六畳ほど。無論、使われた形跡はない。

(え、えっ、ま、待って。ほんとにどういうことなの、これは)

 雪見障子が全面に開け放たれた部屋は、行燈の光がなくとも十分明るかった。

 新調されたばかりの畳のせいか豊かなイ草の香りが鼻腔を抜け、真宵はなおのことまごつきながら、ぐるりと部屋を見回した。

 部屋の隅に寄せられた申し訳程度の唐櫃と几帳以外に、目立った調度品はない。

 床の間を飾る陶器の花瓶には、あせびと菊が古雅に生けられている。背後に垂れる掛け軸は、菖蒲とかわせみが描かれた風光明媚な花鳥画だ。

「ちょっと待ってろ。布団敷いてやるから」

 部屋の端に寄せ、三枚ほど重ねて置かれた座布団の上に下ろされる。

 真宵の体が動かないのを気にしてか、壁に背を預けられるよう気を遣ってくれる優しさに、こんな状況ながらついつい身悶えしそうになった。

(知ってる。知ってるよ、冴霧様が見かけによらず気遣い屋で優しくて思いやりがあって心配性なのは! ええ、知ってますとも! でも、もうほんと、ほんっと、そういうとこだよね……! あああ心臓に悪いっ)