「俺、見学期間中は、マネージャー業務手伝おうと思ってて」
「いっそ、マネージャーになってもいいと思う」
「ひどいですよ、九条先輩」
 ふたりが話している間、私は手持無沙汰に足元を見ていた。実際、距離も遠いのだけれど、九条先輩が遠い存在に思える。
 それに……。
 私は、政本君をちらりと盗み見した。
 あの場所に座っている政本君が羨ましく、妬みすら感じている自分がいる。ついこの間まで私と先輩のふたりだけだった空間と時間が、今、とても懐かしく思えてしまうからだ。演技とはいえ、あんなに近くに座って毎回手をつないでいたのに……。
「…………」
 すると、政本君を見ていたことに気付いたらしい九条先輩と目が合った。私はドキリとして、ふいっと視線を外す。
「あ、俺、ちょっとコンビニに行ってくる」
 すると、九条先輩がおもむろに立ち上がって、伸びをした。
「え?」
 と言う政本君に、
「バスの時間まで、お前らより長いし」
 と返す九条先輩。
私も政本君と同じように驚いたものの、九条先輩にまたちらりとこちらを見られたことで、もしかしたら変な気を回したのかもしれない、と感じ取った。
 ……先輩、私が政本君のことを好きだと思ってるから……?
 先輩が横断歩道を渡ってコンビニへと向かうと、私たちは昨日同様ふたりきりになった。先輩の計らいに気付いた私は、それを嬉しいだなんてひとつも思わず、むしろ胸に痛みを覚えはじめる。
 そうか……ふたりきりにさせようとしたんだ……。
 何度も心の中で呟いて、どんどん落ちこんでいく。
「荘原? 大丈夫? 具合悪い?」
「……ううん、大丈夫」
 政本君は、本当に心配した顔で気遣ってくれる。こういうところも、マネージャー業務を手伝ってくれるところも、彼のいいところだ。そんな優しい面を、私は好きになっていたはずなんだ。
 ……でも……。
「…………」
 やはり私は、この場所に九条先輩がいないことのほうが気になって、バスの時間までの15分を持て余してしまったのだった。



木曜日の部活の時間、私はバスケ部の備品の発注の件で相談があり、藍川先生を探していた。さっき一度体育館に顔を見せたのに、いつの間にかいなくなっていたからだ。
「先生?」
 体育館の女子トイレにもいなくて、私は外へ出た。すると、ちょうど部室棟へ続く通路を曲がった植木の陰から、先生の声がした。