翌日の火曜日、放課後の体育館。すでに来ていた九条先輩に表面的な挨拶をして、マネージャー業務に徹する。
 先輩は、藍川先生から聞いているのだろう、私に関してとやかく聞いてきたりはしなかった。それよりも、みんなが練習しているなか見学している政本君に対して、呆れたように説教している。
 私はその様子を見た後で、女バスに目を移した。4人しかいない彼女らは、2対2でゲームをしていた。根津さんも北見さんも明るく声を出し、なんとか後輩たちのモチベーションを上げようとしているのがわかる。
「…………」
 それを見ていると、申し訳ない気持ちが胸に沁み広がり、運動しているわけではないのに動悸がした。そして、ポケットにあるはずのないハリッチを探して空気をぎゅっと掴んでは、足元がぐらつくような心持ちを耐える。
 ……形は覚えているし、自分で作ろうかな。もしくは、似たものを買うか……。
 そう思って、私はまた九条先輩の言葉を思い出す。
『ハリネズミに助けを求めるのいつまで続けるつもりか知らないけど……』
 みんなのバッシュの音がうるさい。 
『周りの人間はハリネズミ以下?』
ボールの跳ねる音も、重たく耳に響く。
 私は、ずっと見ないふりをしていた宿題を突きつけられているような気がして、腕に抱えていた救急箱をぎゅっと胸に寄せたのだった。

「最後の用具確認とか日誌とか部室掃除とか、地味に大変だよな」
「そうでもないよ。それにそういうの省いたら、マネージャーの仕事なくなっちゃうし」
 部活後、政本君が片付けを手伝ってくれた。見学だけっていうのも悪いし、ケガの反省も込めて、ということらしい。今週はバス通学ということで、私と同じバス停へと向かいながら話す。
「あ、九条先輩だ」
 バス停に着くと、政本君は先輩に「おつかれさまです」と元気よく挨拶をして、当たり前のようにその隣に座った。
「おつかれさまです」
 私も挨拶すると、先輩は、
「どーも」
 と政本君越しに返す。
 どこに座るべきかためらい、私は政本君を挟んで先輩とは反対の端に座った。先輩とは、一番最初の頃と同じ距離だ。
「なんでいるの?」
「俺、今週はバス通学なんです。よろしくお願いします!」
「どの路線?」
 横で、九条先輩に説明をしている政本君。路線を聞くと、私と九条先輩の間に来るバスのようだ。