8
「神須屋さん」
「ぜってえ嫌だ」
「まだ何も言ってないじゃないですか」
「予測できる。スマホが見たいとか言うんだろ」
「その通り。出世できる男は格が違いますね」
「ぶん殴るぞ」
神須屋が拳を固めたので花彌子は肩をすくめた。殴っても花彌子の意志は変わらない。神須屋に唯人の家族と連絡を取って、何とかスマホを見られるようにしてもらいたい。
夜。酔っ払いと客引きがひしめく繁華街を歩きながら、花彌子は神須屋の腕を引っ張っていた。
「私は仲が良かったただのクラスメイトなんですよ。スマホを見せてもらう資格がないんです」
「だからっていきなり俺が連絡するのも不自然だろ。家族ってトコにどんな幻想を見ているか知らねえが、もう二十年以上会ってねえんだぞ」
「そこを何とか」
「ならねえ」
返事はにべもない。神須屋は彼女の腕を振り払い、大股で歩き始めた。
「チッ、待ってくださいよ」
「今舌打ちしたか?」
「投げキッスの間違いじゃないですか?」
「それはそれでキメェわ……」
ゾッとしたように身を引く神須屋に、花彌子は人差し指を立てた。
「じゃあ、できることから潰していきましょう。黒川に話を聞くんです」
「ああ、それはそうだな」
神須屋が首を振る。花彌子はスマホを取り出し、画面を神須屋に見せた。そこには友人から送られてきた黒川の写真が映っている。サッカー部のエースというだけあって、短髪の爽やかなスポーツマン風の男だった。
「実はですね、昼間のうちに友達に聞いたんですけど、最近の黒川は荒れていて、放課後に酒を飲んでは憂さ晴らししているんですって」
「へえ」
「黒川が言っていた街をぶらついていたっていうのも、たぶん半分は本当じゃないかと思います。でも行った店なんかを詳しく言わないのは、恐らく、言えないからじゃないかと」
「なるほど。どこかで酒を飲んでいたと」
「ええ。神須屋さんなら詳しいでしょう。未成年にも酒を提供してくれる店」
神須屋の視線が中空を向く。やがて一つ頷くと、花彌子の手を掴んだ。
「二、三軒、思い当たる店がある。行くぞ」
「神須屋さん」
「ぜってえ嫌だ」
「まだ何も言ってないじゃないですか」
「予測できる。スマホが見たいとか言うんだろ」
「その通り。出世できる男は格が違いますね」
「ぶん殴るぞ」
神須屋が拳を固めたので花彌子は肩をすくめた。殴っても花彌子の意志は変わらない。神須屋に唯人の家族と連絡を取って、何とかスマホを見られるようにしてもらいたい。
夜。酔っ払いと客引きがひしめく繁華街を歩きながら、花彌子は神須屋の腕を引っ張っていた。
「私は仲が良かったただのクラスメイトなんですよ。スマホを見せてもらう資格がないんです」
「だからっていきなり俺が連絡するのも不自然だろ。家族ってトコにどんな幻想を見ているか知らねえが、もう二十年以上会ってねえんだぞ」
「そこを何とか」
「ならねえ」
返事はにべもない。神須屋は彼女の腕を振り払い、大股で歩き始めた。
「チッ、待ってくださいよ」
「今舌打ちしたか?」
「投げキッスの間違いじゃないですか?」
「それはそれでキメェわ……」
ゾッとしたように身を引く神須屋に、花彌子は人差し指を立てた。
「じゃあ、できることから潰していきましょう。黒川に話を聞くんです」
「ああ、それはそうだな」
神須屋が首を振る。花彌子はスマホを取り出し、画面を神須屋に見せた。そこには友人から送られてきた黒川の写真が映っている。サッカー部のエースというだけあって、短髪の爽やかなスポーツマン風の男だった。
「実はですね、昼間のうちに友達に聞いたんですけど、最近の黒川は荒れていて、放課後に酒を飲んでは憂さ晴らししているんですって」
「へえ」
「黒川が言っていた街をぶらついていたっていうのも、たぶん半分は本当じゃないかと思います。でも行った店なんかを詳しく言わないのは、恐らく、言えないからじゃないかと」
「なるほど。どこかで酒を飲んでいたと」
「ええ。神須屋さんなら詳しいでしょう。未成年にも酒を提供してくれる店」
神須屋の視線が中空を向く。やがて一つ頷くと、花彌子の手を掴んだ。
「二、三軒、思い当たる店がある。行くぞ」