7
「神須屋、マジでこういうのはヤバいんだからな」
「感謝してますよぉ、お巡りさん?」
「何だこの空間……」
生徒会室。つい昨日までは窓辺に唯人の死体がぶら下がっていたが、既に運び出されて今は何もない。窓からはグラウンドがよく見える。どこかのクラスがマラソンをやっていた。
生徒会室の入口を塞ぐように、神須屋とスーツ姿の若い男が立っている。スーツの男は森本という名で、花彌子が死体を発見した際にメモを取っていた刑事だった。二人とも詳しく語らないが、森本は神須屋に逆らえないらしい。
窓を観察していた花彌子は、森本の方に体を向けた。
「森本さん、新情報はないんですか?」
「ええっと、玖条さんだっけ。そういうのは民間人には……」
「さっさと話せ」
神須屋に凄まれて、森本は肩をすぼめる。手帳を取り出してパラパラとめくった。
「……実は、自殺ではないんじゃないかって話が出てる」
花彌子と神須屋が身を乗り出す。二人の注目を受けて、森本は手帳に視線を落とした。
「索条痕が二重にあって……簡単に言うと、一度首を絞めた後に、縄に吊るしたようにも見えるという報告があがったんだ」
「決まりだな。唯人は殺されたんだ」
深く頷く神須屋を森本が制する。
「待ってくれ。これも百パーセントそうとは言えないんだ。それに遺書があるだろ? だから自殺だって言う説も根強い」
「その遺書を見せてもらえますか?」
花彌子の言葉に、森本が内ポケットに手を入れた。ビニール袋に包まれた紙片が手渡される。
何度読んでも内容は変わらない。文字は唯人のもので間違いない。破り取られた便箋に書かれたたった三行の言葉だ。便箋はどこにでも売っているような、白い紙面に薄い灰色の罫線が引いてあるものだ。
「ついでに、外場唯人くんの荷物がこれだよ。机の上に、遺書と並んで置かれていたんだ」
今度はリュックが手渡される。唯人がそれを背負っているのを、花彌子もクラスでよく見かけた。森本から渡された手袋をつけ、中身を確認する。教科書、ノート、ペンケース、文庫本、ポータブルプレイヤー、定期入れ、ティッシュが入っていた。
花彌子の手が止まる。
「どうかしたか?」
一緒にリュックを覗き込んでいた神須屋が、怪訝そうに彼女を見つめる。花彌子はハッと我に返った。
「ああいや……便箋がないと思って」
「便箋?」
神須屋が首を傾げる。花彌子は遺書を指差した。
「この遺書を書いた便箋です。破り取った残りがあっても良いじゃないですか」
「捨てたんじゃないか?」
「その可能性はありますが……」
考え込む花彌子の背に森本から声がかけられた。
「すまないけど、そろそろ時間だ」
「最後に一つだけ」
リュックの中身を眺めながら、花彌子は言った。
「スマホはどこにあるんですか?」
ああ、と森本はバツが悪そうに頭をかいた。
「実はご家族のもとに返しちゃったんだよ。思い出が詰まってるものだからって。一応こっちでも調べたけど、確かに玖条さんにメールを送っているのが確認できたから」
花彌子は神須屋を見上げる。神須屋は突然本棚に興味が湧いたように目をそらした。
「神須屋、マジでこういうのはヤバいんだからな」
「感謝してますよぉ、お巡りさん?」
「何だこの空間……」
生徒会室。つい昨日までは窓辺に唯人の死体がぶら下がっていたが、既に運び出されて今は何もない。窓からはグラウンドがよく見える。どこかのクラスがマラソンをやっていた。
生徒会室の入口を塞ぐように、神須屋とスーツ姿の若い男が立っている。スーツの男は森本という名で、花彌子が死体を発見した際にメモを取っていた刑事だった。二人とも詳しく語らないが、森本は神須屋に逆らえないらしい。
窓を観察していた花彌子は、森本の方に体を向けた。
「森本さん、新情報はないんですか?」
「ええっと、玖条さんだっけ。そういうのは民間人には……」
「さっさと話せ」
神須屋に凄まれて、森本は肩をすぼめる。手帳を取り出してパラパラとめくった。
「……実は、自殺ではないんじゃないかって話が出てる」
花彌子と神須屋が身を乗り出す。二人の注目を受けて、森本は手帳に視線を落とした。
「索条痕が二重にあって……簡単に言うと、一度首を絞めた後に、縄に吊るしたようにも見えるという報告があがったんだ」
「決まりだな。唯人は殺されたんだ」
深く頷く神須屋を森本が制する。
「待ってくれ。これも百パーセントそうとは言えないんだ。それに遺書があるだろ? だから自殺だって言う説も根強い」
「その遺書を見せてもらえますか?」
花彌子の言葉に、森本が内ポケットに手を入れた。ビニール袋に包まれた紙片が手渡される。
何度読んでも内容は変わらない。文字は唯人のもので間違いない。破り取られた便箋に書かれたたった三行の言葉だ。便箋はどこにでも売っているような、白い紙面に薄い灰色の罫線が引いてあるものだ。
「ついでに、外場唯人くんの荷物がこれだよ。机の上に、遺書と並んで置かれていたんだ」
今度はリュックが手渡される。唯人がそれを背負っているのを、花彌子もクラスでよく見かけた。森本から渡された手袋をつけ、中身を確認する。教科書、ノート、ペンケース、文庫本、ポータブルプレイヤー、定期入れ、ティッシュが入っていた。
花彌子の手が止まる。
「どうかしたか?」
一緒にリュックを覗き込んでいた神須屋が、怪訝そうに彼女を見つめる。花彌子はハッと我に返った。
「ああいや……便箋がないと思って」
「便箋?」
神須屋が首を傾げる。花彌子は遺書を指差した。
「この遺書を書いた便箋です。破り取った残りがあっても良いじゃないですか」
「捨てたんじゃないか?」
「その可能性はありますが……」
考え込む花彌子の背に森本から声がかけられた。
「すまないけど、そろそろ時間だ」
「最後に一つだけ」
リュックの中身を眺めながら、花彌子は言った。
「スマホはどこにあるんですか?」
ああ、と森本はバツが悪そうに頭をかいた。
「実はご家族のもとに返しちゃったんだよ。思い出が詰まってるものだからって。一応こっちでも調べたけど、確かに玖条さんにメールを送っているのが確認できたから」
花彌子は神須屋を見上げる。神須屋は突然本棚に興味が湧いたように目をそらした。