3
幸せな夢を見ていた。唯人と出会ったときの記憶だ。
唯人と初めて話したのは、二年生の始業式の日だった。その日まで、花彌子は彼の存在を知らなかった。けれど、隣の席になった唯人は当然のように彼女の名前を呼び、彼女が読んでいた本を指差した。
『それ、面白いよね』
マイナーな海外ホラー小説だった。自分以外の読者に初めて出会った花彌子は、少し驚いて返事をした。
『う、うん。私はこの作者が好きで、全部読んでるの』
『いいなあ、僕まだ読めてないんだよね。図書館にも本屋にも置いてなくない?』
『ネットで買ったの。よかったら貸すよ?』
『えっ、いいの』
唯人の顔がぱっと明るくなる。そこで初めて、彼の瞳が晴れ渡った青空の色をしていることに気がついた。
『やった。隣が花彌子さんでよかった。超ラッキー』
ガッツポーズをした拍子に、花彌子の机に置いてあったペンを引っ掛けて落としてしまう。うわごめん、と呟きながら、唯人はそれを拾い上げた。
花彌子の手に乗せて、ふわりと笑う。
『これからよろしく、お隣さん』
──たぶん、それが始まり。
幸せな夢を見ていた。唯人と出会ったときの記憶だ。
唯人と初めて話したのは、二年生の始業式の日だった。その日まで、花彌子は彼の存在を知らなかった。けれど、隣の席になった唯人は当然のように彼女の名前を呼び、彼女が読んでいた本を指差した。
『それ、面白いよね』
マイナーな海外ホラー小説だった。自分以外の読者に初めて出会った花彌子は、少し驚いて返事をした。
『う、うん。私はこの作者が好きで、全部読んでるの』
『いいなあ、僕まだ読めてないんだよね。図書館にも本屋にも置いてなくない?』
『ネットで買ったの。よかったら貸すよ?』
『えっ、いいの』
唯人の顔がぱっと明るくなる。そこで初めて、彼の瞳が晴れ渡った青空の色をしていることに気がついた。
『やった。隣が花彌子さんでよかった。超ラッキー』
ガッツポーズをした拍子に、花彌子の机に置いてあったペンを引っ掛けて落としてしまう。うわごめん、と呟きながら、唯人はそれを拾い上げた。
花彌子の手に乗せて、ふわりと笑う。
『これからよろしく、お隣さん』
──たぶん、それが始まり。