最後に唇に赤い紅を乗せると、秋華は璃鈴に手鏡をもたせた。

「こんな感じではどうでしょう?」

「まあ」

 最後に秋華は、赤い筆で璃鈴の額に花鈿をつける。

「結婚式の時の化粧とは違うのね」

「あの時は儀礼用の化粧を施されたので、通常のものよりもさらにみばえがする派手な化粧だったのです。璃鈴様の普段ですと、これくらいがよろしいのではないでしょうか」

 璃鈴は、鏡の中の自分を、じ、とみている。

「自分で言うのもなんだけど、とてもかわいいと思う。でも……」

 秋華には、璃鈴の言いたいことがわかるような気がした。璃鈴は絶世の美人という顔立ちではないが、だからと言って決して他の妃に見劣りするような見目はしていない。だが、自分自身の美しさを知り尽くしている彼女たちに比べたら、圧倒的に経験値が足りないのだ。

 浮かない顔のままの璃鈴に、秋華は言った。

「璃鈴様には璃鈴様の美しさがあります。人と比べて優越を誇っても、それは本当に璃鈴様の求める美しさではないような気がします」

 璃鈴は、顔をあげて秋華を見つめる。

「目標とするのはよいです。けれど、同じだけを目指していたら、絶対にそれは越えられません。あなたが知らなければいけないのは、化粧の仕方ではなく、璃鈴様自身の持つあなただけのお美しさです」

「秋華……」

 ようやくにこりと微笑んで、璃鈴は言った。

「そうね。そこまで言われるとなんだか面映ゆいけれど、私にだっていいところはあるかもしれないものね」

「はい。私は璃鈴様のかわいらしいお顔が大好きですよ」

「ふふ。秋華ったら、ほめすぎ」

「ある程度の自信を持つのも、美しくなるためには必要なことです」

 そう言われて、璃鈴は他の妃たちを思い出す。

「あの方たちは、自分のことにとても誇らしげだったわ」

「きっとそれだけの努力をなさっている方たちなのでしょう」

「私もがんばらないとね。……本当に、ここに一緒に来てくれたのが秋華でよかった。私一人では、きっとやっていけなかったわ」

 笑いながら言った璃鈴は、ふいに秋華がひどく悲しそうな顔になったことに気づいた。

「秋華……?」

 璃鈴がさらに声を掛けようとしたとき、かたり、と小さい音がした。

 二人が振り向くと、ちょうど龍宗が部屋へと入ってくるところだった。最近はもう先ぶれがないことにも二人は慣れてきた。

「龍宗様!」

 ぱ、と璃鈴が顔をほころばせる。秋華は気をきかせてか、龍宗と入れ違いに部屋を出て行った。秋華の様子が気にはなったが、璃鈴の意識はすぐに、久しぶりに会えた龍宗に向く。

(お化粧していること、何か言ってくれるかしら)

 璃鈴はどきどきしながら龍宗を迎える。龍宗は璃鈴を見てわずかに目を瞠ったが、特段何も言わず部屋へ入ってきた。

 その様子に璃鈴は少しだけ落胆を覚える。

(気づいておられないのかしら。それとも、やっぱり龍宗様の望むような美人じゃないから興味を持ってもらえないのかしら)

 璃鈴の落胆には気づかずに、龍宗はいつも通りの長椅子に腰掛ける。

「息災であったか」

「はい。龍宗様は」

 言いかけて、璃鈴はそれ以上の言葉を飲みこんだ。他の妃のことを、龍宗の口から聞きたくなかった。そう思う一方、龍宗が他の妃とどう過ごしているのか、知りたくてたまらなかった。

 相反する気持ちを、龍宗にどう説明していいのかわからない。