龍宗は長老の勘違いに話を合わせて聞いた。

「あの娘は、なぜ一人だけ色の違う襟なのだ」

「はい、彼女は今、十五歳。十六になって大人となりましたら、襟も大人と同じものになりまする」

 この国では、女性は十六から成人として認められる。十五はまだ子供のうちだ。


「ですから陛下が皇后を選ばれるのでしたら、彼女以外の五人の中から、ということになります。いずれの巫女を選ばれましても、皇后として申し分のない立派な巫女たちにございます」

「ふん……」

 長老の話を聞いている間も、龍宗の目はずっとその娘を追っていた。理由は龍宗自身にもわからない。その娘の伸ばす指先、跳ねる黒髪、小さなつま先。そんなものが、龍宗の視線をとらえて離さなかった。


 一通りの舞が終わると、娘たちはその場に平伏した。長老が声をかける。

「お前たち、顔をあげなさい」

 娘たちが、ゆっくりと顔をあげる。どの顔も緊張にこわばっていた。

 目の前にいるのは夫となるかもしれない男だが、機嫌を損ねればこの場で手打ちになるかもしれない可能性もある。巨大な国を束ねる皇帝は、そうできるだけの権力を持っていた。

 緊張する巫女たちを長老が端から紹介していくが、龍宗は適当に聞いていた。


「璃鈴にございます」

 最後に名を呼ばれたのは、先ほどの一人だけ襟の色の違う娘だった。龍宗は、じ、と璃鈴を見つめる。璃鈴も、その強烈な視線を真正面から受け止めた。それが不躾であることを、世間知らずで育った璃鈴は知らなかった。ただ、その激しさに、惹かれた。

(なにもかもが強烈な人)

 それが、璃鈴が最初に感じた龍宗の印象だ。

 その場にいる官吏を含めた男性の中では格段に若い方だというのに、彼の持つ風格は里の長老に優るとも劣らない。ただ座っているだけなのに、その姿からは威圧する風のようなものすら感じる。第一、龍宗ほどに鍛え上げられた体躯の持ち主を、璃鈴は見たことがなかった。


(そして、綺麗な人)


 龍宗のすべてが、おだやかな里の中で生きてきた璃鈴が初めて目にする激しさを持っていた。それを璃鈴は、美しいと思った。


 龍宗が立ち上がった。あたりが緊張する中、無言で背を向けて、そのままもう振り返ることなくその場をあとにする。周りに座っていた官吏たちも、あわてて席を立ってあとを追った。

「大儀であった。龍宗皇帝もそなたたちの舞を楽しまれたようだ。これからも国のためにつくすように」

 龍宗の後ろにいた若い官吏はそう言うと、自分も龍宗の後を追った。


 璃鈴は、その強烈な意思を持つ煌めいた瞳を、いつまでも忘れることができなかった。