そのまま龍宗が動かないので、寝てしまったのかと思った璃鈴は声をかけた。

「あの、陛下」

「なんだ」

 打てば響くように声が返ってきたところをみると、眠ってはいなかったようだ。


「お聞きしてもよろしいでしょうか」

 璃鈴の言葉に、龍宗は目を開けた。だめとも言わないので、璃鈴は言葉を続ける。

「陛下は、なぜわたくしを選ばれたのですか?」

 容姿や知性なら、英麗や瑞華の方がより優れていた。璃鈴は、なぜ自分が選ばれたのか、いまだに不思議でしょうがない。

 璃鈴の問いに、龍宗はしばらく黙っていた後ぽつりと言った。


「なぜだろうな」

 反対に問われて、璃鈴は微かに眉を寄せる。璃鈴の質問に答えていない。そんな璃鈴に気づいたのか、龍宗が苦笑した。

「強いて言えば、名を覚えていたのがお前だけだったから……か」

「はあ」

 あってないような理由だったが、璃鈴はようやく腑に落ちた。ようは、誰でもよかったということか。それなら、自分が選ばれたことも納得できる。


「それは、申し訳ありませんでした」

「は? なぜだ?」

 璃鈴の言葉に興味を示した龍宗が、体を起こして聞いた。

「里には、わたくしより容姿の良い者も知性に優れたものもおりました。よりにもよって一番子供じみたわたくしが来ることになるとは、失礼ながら、陛下ははずれをひいてしまいましたね」

 淡々と言った璃鈴に、龍宗は一度目を丸くするとふいに笑い出した。


(あら。笑えば意外に可愛らしい顔をしているわ)

 ぞんざいに扱われて不機嫌になっていた璃鈴だが、初めて見る龍宗の笑顔に、少し気分がよくなった。

「そうか。俺ははずれをひいたか」

「もう数年いただければ、もしかしたら絶世の美女に育つかもしれませんが」

「それは楽しみだ」

 くつくつと笑い続ける龍宗を見て、璃鈴はふと気づいた。


「陛下、ご気分はいかがですか?」

「悪くないな。少なくとも、完全なはずれをひいたわけではなさそうだ」

「いえ、そうではなく……お顔の色がすぐれません。もしやどこか体調でも」

 ああ、と龍宗は笑うのをやめて、また長椅子にのけぞるように背を預ける。


「案ずるな。ここしばらく、婚儀の調整で仕事が忙しかったからな。こんな早い時間に執務室を出るのは久しぶりだ」

 早い時間、と龍宗は言うが、決して宵の口という時間ではない。日々の仕事に忙殺される中であの婚儀だ。それは疲れもするだろうと、璃鈴は立ち上がる。

「では、あたたかい薬湯でもお入れしましょう」

「いや」


 龍宗は、璃鈴に片手を差し出す。素直に近づいた璃鈴の手を掴んで、龍宗はその腕をぐいと引いた。勢い、璃鈴はぽすりと龍宗の隣に座らされてしまう。

「あの……」

 間近で見た龍宗の瞳が、鋭い強さで璃鈴を射抜く。その強さに気圧されて、璃鈴は体をこわばらせた。その体を軽くとん、と龍宗が押すと、璃鈴は簡単に長椅子に倒れてしまう。その上に龍宗はのしかかった。

「なっ……!」

「だが、初夜を乗り切るくらいの体力はあるぞ。お前を……」