クロクマは、ハチミツとクルミがたっぷり入った、パウンドケーキを焼きました。
生地はしっとりしていて、クルミはカリカリサクサクしています。
会心のできでした。
キタリスも悔しそうに、おいしいと言ってくれました。
作り過ぎだと怒られるくらい大量に焼いたのに、ちゃんと全部売り切れました。
***
次の日、クロクマは、パイ生地を寝かせている間に、買い物に出かけました。
あのおいしいキャンディがエダツノ屋で売られていることを知ったからです。
朝、野菜を持ってきてくれた白ウサギから聞いたのです。
キタリスは最初、ランチタイムが終わってからにしろ、と怒りました。
ですが、クロクマがダダをこねると、おつかいもしてくるなら、と許してくれました。
クロクマは、ずっしり重くなった買い物袋を抱えて、ご機嫌でした。
石けん。買いました。
洗剤。買いました。
新しいスポンジ。買いました。
キタリスお気に入りのスナック菓子。買いました。
完璧なおつかいです。
たくさんのビスケット。買いました。
おやつも完璧です。
たくさんのキャンディ。買いました。
目的も完璧です。
すきのない、完璧なお買い物です。
さて、クロクマがしないといけないことは、お買い物だけではありません。
森のみんなが食べてくれる、おいしいご飯を作らなくてはいけません。
クロクマは、てっけてっけとのんびり、食堂を目指しました。
クロクマの前方から、ちょろちょろと小さなものが駆けてきました。
キタリスより体の小さいその子は、シマリスでした。
服屋のシマリスです。
ここ数日、熱を出して寝込んでいて、仕事を休んでいました。
シマリスは、少し手前で立ち止まって、ぺこりと頭を下げました。
あんまり近づくと、シマリスはクロクマの顔を見るのに、すっごく見上げなくてはいけなくなります。
逆に、クロクマはシマリスの顔を見るのに、すっごくうつむかなくてはいけなくなります。
なので、立ったまま話すには、少し離れているのが丁度良いのでした。
「クロクマくん。おはようございます。」
クロクマもあいさつを返します。
「おはよー、シマちゃん。もう熱はないのー? 外出て平気ー?」
シマリスがクスクスと笑います。
「平気だから、お外にいるんですよ。」
せっかく心配したのに笑われて、クロクマはむっとしました。
ほほを膨らませます。
「もっと早く元気になってよね。昨日、せっかくおいしいケーキ焼いたのに!」
シマリスはまた笑いました。
「それはすみません。今日は、ハリネズミさんと一緒に、お店に行きますね。」
「約束だよ-。」
「はい。」
手を振って別れようとして、シマリスがさっと口元を押さえました。
こほっと、せき込んでしまいます。
クロクマはあわててしゃがみ込みました。
「シマちゃん、だいじょーぶ?」
シマリスがうなずきます。
「大丈夫ですよ。まだちょっと、ノドがイガイガするだけです。」
「えー?」
クロクマは心配そうに額にしわを寄せました。
そして、あ、と思いつくと、買い物袋からキャンディを一袋取り出しました。
「キャンディってノドに良いんでしょ? これあげる。」
シマリスは目をまん丸にしました。
「良いんですか?」
「いっぱい買ったから。あげる。」
クロクマは、シマリスの頭に袋を乗せました。
シマリスは、落とさないように袋を手で支えます。
「ありがとうございます。」
シマリスは、ちょっとだけ頭を下げました。
いつものようにきっちりお辞儀をすると、袋が落ちてしまいそうでした。
「じゃあ、またねー。」
「はい、また。」
二人は今度こそ、手をふりふり、それぞれの店に向かいました。
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