「勝負の内容は――宝探しよ」

「……へ? 宝……探し?」

 何とも子供じみた勝負内容に、思わず聞き返してしまう。
 きょとんとした僕の前で、奈津美先輩はカバンから文庫本サイズの本を取り出した。七色のクロスで装丁されたその本は、『アルカンシエル』を思わせる。おそらく、奈津美先輩が自ら製本したものだろう。

「これ、アルカンシエルを作った材料の余りを使って、私が作った本よ。これが、悠里君に見つけてもらう宝ね」

 僕の予想通りのことを、奈津美先輩が言う。余り物で作ったと言うが、そうとは思えないくらい立派で綺麗な本だ。この人の力量の高さが、ここからも窺える。さすが、フランスの職人から目を掛けられるだけのことはある。

「これから私は、この本を学校のどこかに隠してくるわ。そして、学校中の色んなところに、ヒントを置いてきます。悠里君は、そのヒントを辿ってこの本を見つけてくるの。制限時間は、文化祭が終わる午後三時。それまでに悠里君が本をもってこの部屋に戻ってこられたら、悠里君の勝ち。戻ってこられなければ、私の勝ち」

 わかりやすいでしょ、と奈津美先輩は笑った。

「私がこの本を隠して戻ってきたら、最初のヒントを悠里君に渡します。悠里君は、そのヒントから連想される場所を考えて、次のヒントを見つけてね」

「要するに、スタンプラリーみたいなものですか。チェックポイントを巡ることで、最後には宝の場所に辿り着ける」

 僕が尋ねると、奈津美先輩は「そういうこと」と軽く頷いた。
 なるほど、確かにわかりやすい。一体どんな奇天烈な勝負を挑まれるのかと戦々恐々としていたところだから、拍子抜けするくらいわかりやすい勝負形式だ。

「予め言っておくと、用意したヒントは四つよ。その答えの先に、この本を隠しておくわ」

「わかりました。でも、いいんですか? せっかく勝負内容を決められるアドバンテージを持っているのに、こんな頭脳戦にしてしまって。手の器用さなら先輩の足元にも及びませんけど、頭の回転なら僕は先輩に負けたりなんかしませんよ」

「さあ、それはどうかしらね。先輩の底力というものを見せてあげるわ」