「先輩、さっきから何を言っているんですか? 何をそんなムキになっているんです?」

「だって、あのメッセージを読んだら、私、居ても立っても居られなくて……」

「メッセージ?」

 奈津美先輩が感情的に訴えてくるが、僕と陽菜乃さんは揃って首を傾げるばかりだ。
 メッセージ? そんなもの、さっきの本にあっただろうか。

「えっと……あれ?」

 そこで奈津美先輩も、ようやく自分と僕たちの間に認識の齟齬があると気づいたようだ。気付いてないの? と、戸惑い交じりの視線を僕に向けてきた。

「悠里君、さっき本が並んでいた時、一体どこを見ていたの?」

「どこって……請求記号がバラバラで、統一感がないな、と……」

 チラリと陽菜乃さんの方を見ると、僕に同意するようにコクリと頷いてくれた。
 ただ、奈津美先輩はきょとんとした様子で目をパチクリさせている。

「請求記号って、背のラベルについているあの番号よね? 何でそんなこと見ているの?」

「いや、何でって……。普通、最初にそこ見るでしょ。本を並べるのに、一番重要な情報なんですから」

 困惑気味な声音で答える。
 僕の答えを聞いた奈津美先輩は難しい顔で考え込み、ふと何かに気が付いた様子でポンと手を打った。

「悠里君、頭がお仕事方面に固まり過ぎよ。もっと利用者さんの視点で考えてみて。普通の利用者さんは、最初にそんなところを見ないわ」

「普通の利用者の視点……」

 言われて、初めて気付いた。

 盲点だったというか、普段のクセで書架を管理する側の視点に立ってしまっていた。
 請求記号なんて、図書館に詳しい利用者でもなければ、どうでもいい数字の羅列でしかない。ましてや子供がそこを気にすることなんかないだろう。

 では、利用者がまず目にする場所とはどこか。そんなの、ひとつに決まっている。
 利用者が目にする部分とメッセージ。子供が考えるイタズラ。それに、児童書コーナーの至る所からかき集めた本。そこに、わざわざ色んなところから見繕わなければならない理由があったとすれば……。