「……何やってんですか、先輩?」

「ひゃうわっ!」

 僕が声を掛けると、カーペットに寝そべっていた奈津美先輩がビクリと震えた。
 うつぶせに寝転んだ先輩は手に児童書を持ち、両脇で同じく寝転んだ小学校低学年と思われる子供たちと一緒に読んでいた。

「ち、違うのよ、悠里君。これは、サボっていたわけではなくて……そう! 利用者さんとの交流を図っていたの!」

「そうですか、よくわかりました。で、何をしていたんですか?」

 言い訳は取り合わずに、同じ問いを繰り返す。

「この子たちから、『本探すの手伝って』って言われて……。で、見つけてみたら昔読んだことがある本で、懐かしくなっちゃって……」

「ここで読書に耽っていたと」

「はい……」

 正座した奈津美先輩が、しょんぼりとうなだれた。

 僕も、やれやれと肩を竦める。
 やっぱり、大人しく書架整理に精を出してもらうべきだったな。

 学校の図書委員さえやったことがない奈津美先輩にとって、書架整理も利用者案内も未知の仕事だ。装備の時と違い、鍛えた手先の器用さでカバーもできない。
 実際、奈津美先輩は図書館の本がきちんと分類されて並んでいることさえも知らなかったくらいだ。当然ながら図書館内の本の配置なんて、ろくすっぽ覚えちゃいない。

 だから、少しでも負担が減るように「書架整理に集中してください」ってお願いしたんだけど……。この人、僕に部長としてデキるところを示そうとしたのか、「お気遣い無用よ!」とか言って聞かないんだよなぁ。
 で、その結果がこの体たらくと……。ちなみに昨日は、本の場所を尋ねてきた女の子と一緒に児童書コーナーの前で途方に暮れていた。

 これはもう、呆れ果ててため息しか出ない。

「まったくもう、『羽目外すな』って僕に言ったのは、どこの誰ですか? 小学生なのは体型だけにしてくださいよ」

「さ、さすがに小学生並は言い過ぎよ……?」

「そうですね。胸は……下手すると小学生にも負けていますもんね」

「ひどいっ!」

 神妙な面持ちで事実を告げたら、奈津美先輩が悲鳴を上げた。
 奈津美先輩、事実を受け入れなければ、人は成長しませんよ。発育面は、年齢的にもう期待できないかもしれませんが……。
 と、その時だ。僕たちの間に、思わぬ伏兵が飛び込んできた。