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 陽菜乃さんへのインタビューは、午前中の内に滞りなく終わった。

 最初はむくれたままだった奈津美先輩も、インタビューをするうちに機嫌を直したようだ。陽菜乃さんと、あれこれ話を弾ませていた。
 奈津美先輩は妙に人の懐に入るのが上手いから、実はインタビュアーに向いているのだ。たまに話を脱線させてしまうこともあるけど、そういう時もおもしろく転がして、結果的に興味深い話を引き出してくれる。

 一方の僕はというと、話はほとんど奈津美先輩に任せて、メモを取るのに専念していた。
 こっちのOG訪問&職場体験のレポートは、僕の担当だ。奈津美先輩が引き出してくれたおもしろい話を無駄にしないよう、全身を耳にしてメモを取りまくった。

 取り終えたメモの出来は上々。これなら、良い記事が書けそうだ。
 取材が終わると、僕らはそのまま三人で昼食を取り、図書館の仕事に入った。

「この三日間でふたりにやってもらう仕事は、本の配架と書架の整理、それに新着図書の装備よ。まずは新刊書の装備からだけど……ふたりとも〝装備〟ってわかる?」

「バーコードラベルや背のラベルを貼ったりして、本を貸し出せる状態にすることですよね」

 陽菜乃さんに問われ、すかさず答える。現役図書委員であり司書志望としては、これは答えずにはいられない。
 陽菜乃さんは「正解!」とひとつ頷いた。

「うちの図書館だと、背ラベル、バーコードラベル、盗難防止用の磁気テープを貼って、表紙に保護用のビニールフィルムをつけます。装備のやり方は、これから教えるわ」

 こっちに来て、と言う陽菜乃さんの後に続いて、バックヤード奥の作業台へ移動する。

 いつも通り最後尾を歩く僕は、早くも舞い上がっていた。
 いきなり装備をやらせてもらえるとは有り難い。特にビニールフィルムは午前中から気になっていたから、使うことができてうれしい限りだ。これは否が応でもテンションが上がってしまう。

 作業台の近くには、装備を待つ新着図書が並んでいた。
 ここに並んでいる本の装備が、僕らの仕事というわけだ。ざっと数えてみれば、十冊程ある。つまりはひとり頭、五冊か。タダで五冊分もやらせてもらえるなんて……至福だ。

「……悠里君、どうしたの? 顔がにやけてるわよ」

「あっと、すみません。ちょっと、幸せに浸ってしまって……」

 慌てて表情を引きしめるが、どうしても笑みが零れてしまう。
 今なら、奈津美先輩が坂野修復会社で燃えていた理由もわかる。自分が挑戦してみたいことを目の前にしたら、感情を押し隠すことなんてできやしないんだ。