記憶の旅から帰還し、僕はひとつため息をついた。

 あの日からおよそ一年三カ月、僕は書籍部の部員として活動し、今に至ったというわけだ。我ながら、なかなか律儀な性格だと思う。よくこの部を辞めなかったものだ。奈津美先輩の言う〝愛情〟ではないが、〝愛着〟くらいは湧いているのかもしれないな。

「どうしたの、悠里君? 急に明後日の方角なんか見て」

「いえ、愛情はなくても愛着くらいはあるかな~と思い返していただけです」

 僕が素直に思っていたことを言うと、奈津美先輩がパッと華やかな笑顔になった。「うんうん、それでこそ書籍部員よ!」と満足げだ。
 喜んでいただけたようで何よりです。

「で、結局、文集作成の自由って、どういうことなんですか?」

「ああ、そうだった。聞いて、悠里君。今年は二年ぶりに、あの企画を復活させるわよ!」

「二年ぶりにあの企画? ……って、まさか!」

「そう! 今年の文集は、私たちで手作りします!」

 奈津美先輩が、力強い笑顔でまたもや身を乗り出してきた。マイブームなのかな。

「去年は渋谷(しぶや)先輩と九條先生に反対されてお流れになったけど、今年はやるわよ! 自分たちで折丁をかがり、背固めをして、表紙をつけるの。ハンドメイドの文字通り世界にひとつしかない文集を作るのよ!」

「はあ……」

「やっぱり、文集を作るなら製本にもこだわるべきなのよ。すべて印刷所に任せて『はい、終わり!』なんて邪道もいいところだわ。手作り最高! これぞ、書籍部のあるべき姿なのよ!」

 呆気にとられた僕に、奈津美先輩がグッと拳を握り締めて力説する。僕が二の句を継げずにいる間に、奈津美先輩はすっかり演説モードに入ってしまった。
 きっと九條先生も、こんな感じで延々と演説を聞かされたのだろうな。それも、二か月に渡って……。