「では、気を取り直して……。ようこそ、浅場南高校書籍部へ。私は、あなたを歓迎するわ!」

 なんとこの二年生は、懲りずに同じことを繰り返してきやがった。立ち直りが早い上に、学習しない人だ。
 と思ったら、顔は赤いままだった。どうやらやせ我慢しているだけみたいだ。どうにか余裕の笑みを浮かべている彼女に、僕は呆れ交じりの声でこう尋ねた。

「先輩、何でそこまでして、僕をその書籍部とやらに入れたがるんですか? 一年生なら、他にもたくさんいるでしょうに」

「悠里君なら、すぐにうちの部に入ってくれるかな~って思って。書籍部って、ここ数年は毎年入部者ひとりずつの少数精鋭なのよね。だから今年はいっそのこと、こっちから狙い撃ちしてみようかなって思ったの」

 えへん、と先輩が胸を張る。すごくガキっぽい。
 先輩、それは少数精鋭ではなく、単に人気がないというのです。
 そんな言葉が喉元までせり上がってきたけど、現実を突きつけるのもかわいそうなので必死に飲み込んだ。

「そうですか、それは結構なことで。でも、僕が他の部の勧誘に乗っていたら、どうするつもりだったんですか?」

「それは大丈夫! 悠里君なら、他の部の勧誘にも負けずに書籍部のところまで来てくれるって信じていたから! 校門で待っていれば、すぐに姿を現すって思っていたわ」

 彼女の、僕への信頼が重たい。そんな穴だらけの作戦に、そこまでの期待を乗せて待ち伏せないでほしい。
 まあ事実、僕は他の部になびくことなく勧誘街道を抜けて、このおかしな二年生に捕捉されてしまったわけだが……。そう思うと、この変な先輩の思い通りに動いてしまったようで、何だか無性に腹が立つ。

「それはほら、悠里君って小学生の頃から司書志望だったでしょ。書籍部とも相性バッチリじゃない?」

「は? 先輩、何でそんなこと知ってんですか?」

「え? 何で知っているのかって、昔、悠里君が教えてくれて……」

「僕が……先輩に……?」

 頭にクエスチョンマークを浮かべながら首を傾げる。
 僕の態度に、二年生はなぜかカチンと凍りついてしまった。表情は笑顔のままだけど、顔色がどんどん青ざめていく。ついでに、雪山で遭難でもしたかのように、ガチガチと体を震わせていた。
 感情が表に出やすい人というのは、こういう時に便利だ。動揺しまくっていることが、手に取るようにわかる。
 そんな状態のまま、彼女は縋るような口調でこんなことを聞いてきた。