「美しい書物か。これなら……」

 タイトルに美しい書物と入っていたその本を手に取る。副タイトルには三大美書のひとつを作ったケルムスコット・プレスのウィリアム・モリスの名前も入っているし、期待できそうだ。
 早速、目次に目を通していく。どうやら第四章にケルムスコット・プレスをはじめとした、プライベート・プレスの記述があるようだ。

「ダヴズ・プレス……。欽定英訳聖書……」

 本を速読しながら、目を皿のようにして目的の記述がないか探す。
 すると、そのものずばりの記述が目に飛び込んできた。

「あった! ここだ!」

 速読をやめ、記述付近の内容をじっくりと読み込んでいく。同時に、言葉の意味を把握したことで、展示即売会での奈津美先輩とスタッフさんの会話がより鮮明に蘇ってきた。

 そうだ。あの時、ふたりはダヴズ・プレスの活字に関する逸話のことを話していたのだ。
 ダヴズ・プレスの製本家のサンダーソンが自分の死後に活字を使えないようにテムズ川に投げ込んでしまったとか、なんとか。それで、最近になってその一部が川から引き上げたとか……。

「……え? なんだ? それってつまり、先輩は本を川に捨てたってことか?」

 奈津美先輩が能天気な笑顔で本を投げる姿が、頭をよぎった。
 確かに、この学校の北側には大きな川が流れている。もしかしてあの人、そこに本を投げ捨てたのか? まさかこれも、昨日の仕返しとかいうんじゃあ……。こう、「意地悪な悠里君は、川でも泳いで頭を冷やせばいいのよ!」的な?

「い、いや、待て。落ち着け。いくら先輩でも、仕返しのために本を川に投げ捨てたりはしないはずだろ」

 頭を振って、能天気に本を投げる奈津美先輩の姿を掻き消す。あの人にとって本は、人生を懸けるに足る代物なのだ。ましてや、今回の宝となっているのは、奈津美先輩が自分で作った本である。川に投げ捨てるはずがない。……たぶん。

 ならば、答えは別のところにあるはずだ。この逸話から連想できる、別の答え。それを探し出す。……信じてますよ、先輩。

「なんか他にヒントはないか。本の隠し場所につながるヒントは……」

 再び頭をガシガシと掻きながら、ヒントになる出来事がなかったか、記憶を探る。
 ここまで来たら、別に問題からの連想に縛られる必要はない。だって、次はもう宝の隠し場所、つまりはゴールなのだから。問題からゴールの場所がわからないなら、別の方面からゴールに辿り着けばいいだけのことだ。
 本を隠して戻ってきた奈津美先輩の言動や仕草に、何かヒントはなかったか。頭をフル回転させて考える。