特別教室棟を出て、再び本校舎へ向かう。図書室は本校舎二階の端だ。教室とは反対方向に行かなくてはならないため、図書室前の廊下に人影はない。図書委員かつ図書室に作品を展示している書籍部員としては悲しい限りだが、誰かの邪魔になりにくいのは助かる。
僕が図書室に入ると、そこでは当番の図書委員がひとり、暇そうに本を読んでいた。一緒にカウンター当番をしたこともある一年の男子だ。お調子者だが、明るくフレンドリーで付き合いやすい後輩である。
「あ、先輩。お疲れ様です」
「お疲れ。調子はどう?」
「全然人なんて来ないから、暇で暇で仕方ないッス」
「まあ、仕方ないよ。去年もそんなもんだったし。……あ、でも、あとで書籍部OGの姉妹が来るかもしれないよ」
「マジですか! そのふたりって、美人ですか!?」
「え? ああ、ふたりとも綺麗な人だけど……」
「うぉおお! マジっすか!!」
拳を握り締めて雄叫びを上げた後輩は、「いいッスよね、美人姉妹……」とだらしなく笑い、空想の世界にトリップしてしまった。実に男子高校生らしいといったところか。
「おっと、そうだ。さっさと探さないと」
トリップした後輩をそのままに、僕は目的を果たすため、書架の間へと入って行く。
図書室の書架の状況は、すべて頭に入っている。現在は本を入れていない棚をひとつひとつ確認していくと、八カ所目でヒットした。
「よし、見つけた」
しゃがみ込んで、一番下の棚を覗き込む。普段使用されていないその棚には、何冊かの本が収められていた。
タイトルは左から、『若草物語』『宝島』『小公女』『のはらうた(1)』『西の魔女が死んだ』『地獄変』だ。
選書を見る限り、ヒントの【子供たちの~】という部分に合わせて、児童書を使用したようだ。けれど、最後だけは思いつかなかったのだろう。これだけ一般書となっている。