夕食を食べ終わると、青葉が熱い茶を淹れてくれた。慣れた緑茶の風味が口の中いっぱいに広がると、ほっと落ち着いた気分になる。

「恭ちゃん、今日はずっと嬉しそうな顔してる。何か嬉しいことでもあったの?」

「そうか? どっちかっていえば、疲れてるけどな」

 西野は彼女と仲直りできただろうか。女は面倒くさいと言った西野の顔と、恋愛は難しいと言った由宇の顔が交互に脳裏に蘇る。

「青葉はさー、彼氏っていないよな?」

「もしいるなら、今ここに座っていると思う?」

「……ですよね。じゃあさ、もし誰かの頭の中からその人の記憶を奪えるとしたらさ、どうする?」

 恭矢の突拍子もない質問に、青葉はきょとんとした表情で小首を傾げた。

「えー? 変な質問だね」

「まあまあ、ちょっとした雑談だよ」

「誰の記憶を奪うのか、選んでもいいの? 恭ちゃんだったら、どうするの?」

「誰でもいいよ。総理大臣でも学者でもアイドルでも。うーん……あんまり考えてなかったけど、俺なら東大主席入学をした人の学力とかかなあ。二年生になって、授業めっちゃ難しくなったし」

 疲れていると家でも授業中でも眠くなってしまい、勉強に身が入らないのが悩みである。勉強しなくてもテストで満点を取れるような頭があればなあと、叶わない願望を抱きながら結局ペンを片手に頑張るしかないのだが。

 青葉は頬に右手の人差し指をあてて少しだけ考える素振りを見せたが、すぐにその指を恭矢に向けて、微笑んだ。

「恭ちゃんかな」

「え? 俺? 別に俺の記憶なんて奪っても、青葉にメリットないぞ?」

 それに幼い頃から一緒にいることが多かったし、すでに共有している思い出も多いはずだ。

「メリットならあるよ。恭ちゃんの考えていること、全部知りたいもん」

 その言葉を聞いた恭矢は、頭の中が急に冷静になった。青葉の発言は、やはり恭矢への依存を思わせる。恭矢は一度小さく息を吐いて、真剣な瞳で彼女を見据えた。

「……今は青葉にとって、俺がすべてなのかもしれないけど。でもな、もし青葉に好きな男ができたなら、こんな生活で縛るのはよくないって思ってる。だから、ちゃんと言ってほしい。俺は別に、反対したりとかしないから」

「恭ちゃんは、わたしに好きな人ができたら嫌じゃないの?」

 大きな双眸を持つ青葉にじっと見つめられ、質問の居心地の悪さも相まって言葉に詰まってしまった。