「すごい、こうやって事前に決めておくんですね」
 じっくり見ていると、桜さんが「絵、雑になっちゃったね」と苦笑した。

「当日考えながら撮ることもできなくはないんだろうけど、ストーリー順に撮るわけじゃないから、前後のカットで整合性が取れてなかったりすると怖いしね。こっちでは右手出してたのに次は左手になってた、とか。だからやっぱり、この絵コンテが指南書代わりかな」

「なるほど、確かに先に考えておかないと現場でパニくっちゃいそうだ。何カットくらい描くんですか?」
 その質問に、彼女は「んー」とペンを顎に当てる。

「大体、250とか300カットくらいかなあ」
「にひゃ……」

 なんとなく50~60くらいだろうと思っていたので、予想の遥か上をいく答えに唖然としてしまった。この絵を250も描くの……? アクションやアングルの説明も加えて……?


「えっと、30分映画だから1800秒で、250カットなら1カット平均……7秒くらい……?」
「お、キリ君暗算速いね。実際は30分の中にエンディングテロップとかもあるし、6~7秒ってところね」

 1カットで6~7秒。普通の映画もそのくらい短かっただろうか。会話の応酬や長台詞もあるから、もう少し長い気がする。

「普通の映画やドラマの1カットはもっと長いの」

 俺の疑問はお見通し、と言わんばかりに心の声に同調してくる桜さん。「スズちゃんも初めてカット数聞いたときにビックリしてたなあ」と思い出してようにクスリと笑った。

「2つ理由があってね。1つは見る人への配慮。いずれ学校でも上映しようと思うんだけど、じっくり映画を見るのが苦手な人もいるでしょ。だから、カットを細かくして映像のテンポを上げるの。せっかくなら、年近い人が楽しんでくれる映画作りたいしね」
「そっか、俺達の世代に合わせるんですね」

 Yourtubeでもアプリでも、編集された短い動画を見慣れている。届けたい人に向けてカットの構成を変えるなんて、考えもしなかった。

「で、2つ目が役者への配慮かな。うちはこの部員数だから、役者は演劇部にお願いするのね」
「演技に慣れてますしね」
「でも、演劇部は9月下旬に全国大会の予選があるから、この時期にあんまり負担かけたくないのよね」
「負担? あ、長い台詞を減らしてるのか」

 閃きを声に出すと、彼女は「ご名答」と言わんばかりに目配せしてみせた。

「もちろん、演出上どうしても長く話してもらいたいときはそうするわ。だけどそれ以外は、なるべく覚えなくてもいいようにしてるの。台詞間違いのNGも減るから撮影も短くなるしね」

 そう言って彼女はパラパラと絵コンテを捲り、枠だけ書いてある白紙のページを一番上に持ってきた。


 普段、何気なく目にしている映画。予算や規模は違えど、それがこんな風に作られている、というのを知れるのは興味深い。

 そして、なんとなく「学生映画=雑なもの」という印象だったけど、それは間違いだった。むしろスタッフも期間も限られているからこそ、細やかな気遣いが必要で。奥深さに感銘を受けるとともに、その調整を一手に担っている桜さんへの敬愛の念が胸の中で膨らんだ。



「………………」

 黙り込んだ彼女の視線は白紙から動かなくなり、アイディアが降ってくるのを待ち構えるように、取り出したシャーペンのクリップ部分をカチカチと弾いている。

 集中しているなら、俺ができることは一つ。邪魔しないことだけ。10歩ほど距離を置き、何度も見返して曲がり目のついた脚本を、カットの区切りの想像しながら読み始めた。