それで、と彼は言う。「君の誕生日は?」

 「ああ、花の話。誕生日は七月二日です」

 「じゃあ、キンギョソウとクレマチスだね」

 「へえ。キンギョソウは聞いたことがある気もします」

 「ピンクとか黄色、白、オレンジ……さらには複色まである花だね」

 「へええ」

 「花言葉は、日本ではおしゃべりとか出しゃばりなんかがある」

 ああ、とわたしは苦笑する。「わたしにぴったりですね」

 「口を開いて話しているような形に由来するんだって。西洋では、上品とか優雅。また、日本では話しているように見られる花姿も、西洋では仮面に似てると言われるらしい」

 「へえ。感性の違い……」言いながらウエハースをかじると、おいしいと無意識に声が出た。ナオさんは穏やかに微笑む。

 「クレマチスの花言葉は、精神の美と、旅人の喜び」

 「へえ、なんか素敵……」

 「精神の美は、ツルは細くとも大きく美しい花を咲かせることに由来するみたい」

 「ふうん。どんな花なんです?」

 ナオさんは「そうだな」と言って辺りを見回した後、じゃあと言って、携帯電話を操作し、画面をこちらに向けた。幾枚もの細長い花弁が集まって円を作っているような形の花だった。色は、白にピンク色の線が入っているようなものだ。

 「綺麗ですね。かわいい」

 「色はこの他、赤紫や青紫っぽいのもあるんだ」

 「へええ」

 「精神の美。僕には、君にぴったりな言葉に思える」

 「ええ、そうですかねえ……?」照れますよと問うように言えば、ナオさんは僕は本気だよと笑う。

 「ナオさんの誕生花はなんですか?」

 「ユーストマとゼラニウム。花言葉は――」

 「あっ、ユーストマは知ってますよ。前に読んだ小説に出てきたんです。花言葉は、すがすがしい美しさと、優美」まるで彼を表した花であるようだ。

 「西洋では」と言うナオさんへ、あ、と声を漏らした。「西洋か。それは知らないです」と苦笑する。

 ナオさんは華やかに微笑み、「感謝と穏やかさ。これらは、最近になってようやく手に入れたものだよ」

 「へええ、素敵じゃないですか。え、前は荒れてたんですか?」

 「荒れてた……というわけではないけど……。穏やか、とは言い難い心情だったかな。状況もだけど」

 「そうなんですね。ちなみに、花言葉の由来はなんなんですか? 読んだ小説には、そこまでは書いてなくて」

 「気品と愛らしさを併せ持った花姿に由来する、と見たことがある」

 「そうなんですね。確かに、美しさも愛らしさもある見た目ですよね」八重咲のバラやカーネーションにも似た形の花だ。小説を読んだ後、どんな花なのか関心が湧いて、調べたのだ。

 「ゼラニウムは? 小学校の花壇に咲いてた記憶がある花ですけど……」

 「尊敬と信頼、真の友情。深紅のゼラニウムは、憂鬱。西洋では、愚かさとか上流気取りとか」随分いろいろあるんだ、とナオさんは笑う。

 「へえ。あんな綺麗な花に憂鬱なんて花言葉がついてるんですね。そんなに憂いを帯びた花には見えないですけど……」

 「青臭いにおいが由来らしいよ。僕も憂鬱なんて印象はなくて、調べたんだ」

 「そうなんですね。ですよね、憂鬱なんてイメージないですよね」